すき焼きの老舗「伊勢重」 創業145年の覚悟

2014.01.30


宮本重樹さん【拡大】

 「うちは、古いだけです。ですが、それが重い」と、伊勢重6代目店主、宮本重樹さん(61)はいう。

 「バブルやリーマン・ショック、BSE問題など先祖から見れば、蚊に刺された程度」と表現し、「関東大震災や戦争の時代を耐えてきた代々を思えば、大変なんて言ってられない」と付け加えた。老舗を維持する覚悟の程なのだろう。

 現存するすき焼き屋でもっとも古いといわれる伊勢重の創業は、1869(明治2)年2月のこと。江戸時代中頃に伊勢から江戸に出てきて骨董(こっとう)商などを営んでいた重兵衛が、体が弱かったことから薬喰いとして牛肉に着目したことに始まるという。

 「先見の明」があったとはいえ、当時の日本人には牛肉を食べる習慣はなく、「野蛮」と石を投げられたりしたものだから初代は塀を高くするなど苦労が絶えなかったそうだ。

 1872(明治5)年1月24日、明治天皇が初めて牛肉を食したと報じられてから、牛鍋はざんぎり頭とともに文明開化の象徴となった。

 仮名垣魯文(ろぶん)の戯作『安愚楽鍋』に「賢愚貧福おしなべて、牛鍋食はねば開花不進奴(ひらけぬやつ)」と牛鍋が大流行した当時の様子が描かれている。その頃、東京の牛鍋屋は550軒を超えた。

 創業時は牛鍋屋だったのだが、伊勢重は他店と違って味噌煮込み風牛鍋ではなく、当初から独自の割り下を使っていたそうである。

 「すき焼き」はもともと関西地方の呼び名で、関東大震災以降、割り下を使う「関東風すき焼き」が広まった。

 「注文をいただいてから、手切り」する伊勢重の牛肉は、松坂・近江・前沢など国産黒毛和牛で、色・肉質・歩留まりなど最高級ランクのA5を使う。手切りするのは、「肉の目に直角に切った方がやわらかくなる」からで、冷蔵庫やスライス機などない「創業時からやってきた当たり前」のことだという。

 個室で、炭火の水火鉢に鉄鍋を乗せていただく様式は昔のままだ。鉄鍋も宮本さんが「生まれる前から使っているもの」で、秘伝の割り下とともに伊勢重の「こだわり」である。

 創業145年。「守るべき」老舗の「重さ」は、そのまま世界に誇れる日本の文化なのだ。  (谷口和巳)

 ◆伊勢重 東京都中央区日本橋小伝馬町14の9 (電)03・3663・7841

 ■たにぐち・かずみ 団塊世代の編集者。4つの出版社を転籍、19の雑誌に携わり、編集長として4誌を創刊。団塊世代向け月刊誌『ゴーギャン』元編集長。『女優森光子 大正・昭和・平成−八十八年激動の軌跡−』『帝国ホテルの流儀』(共に集英社)などの書籍も手掛ける。

 

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