200年の「たれ文化」誇る老舗 うなぎ「前川」

2014.02.13


前川6代目大橋一馬さん【拡大】

 「高村光太郎が体の弱かった奥さん(智恵子)のために、よくうなぎの肝を土産に買って行かれた」と祖父・駒吉から聞かされたのは、前川6代目大橋一馬さん(72)。

 「祖父はラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と親交があって、海外で仕事をするつもりでいたので日本郵船に就職したのですが、跡を継ぐ者がいなかったので仕方なく4代目になった」そうだ。だから、「代々の当主は自ら包丁をとらねば前川の蒲焼ならぬ」といわれているが、「4代目の祖父だけは、外国語をしゃべったが包丁は握らなかった」と一馬さんは苦笑する。

 また、5代目を継いだ父・公一の時代には、「浅草生まれの池波正太郎」と「両国生まれの池内淳子」、それに「7代目尾上梅幸」の3人が毎年浅草寺四万六千日の縁日の日に「浅草を語る会」と称して座敷に上がっていたのを、一馬さんも少年の頃から「目撃」していた。

 その頃、ラジオの人気番組「とんち教室」に出演していた石黒敬七、漫画家の長崎抜天(ばってん)をはじめ、久保田万太郎、山田耕作らもひいきの客だった。

 長崎抜天は前川の頭文字をとって「まわってきたみち えど趣味ばかり かば焼うまくて わしゃうれし」と書き残し、山田耕作は前川のうなぎ料理を「まるでオーケストラの音のような味」と表現したという。

 一馬さんもまた先代からの縁で、池波正太郎のテレビドラマ『鬼平犯科帳』で長谷川平蔵役を演じた中村吉右衛門と対談している。

 初代勇右衛門がうなぎ料理の店を始めたのは、文化文政(1804〜30年)の頃。

 隅田川に架かる駒形橋のたもとにある店は、かつて船着き場があって直接店に上がれたそうだ。

 関東大震災で店は焼けたが、駒吉の「まず、たれだ」との声で、「母(ぼ)だれ」と呼ぶ江戸時代からのたれを甕ごと運び出し暖簾を守った。

 「味醂(みりん)と醤油だけ」というたれだが、約200年の永い歳月に浸け足されてきた「前川の味」を21世紀の今に残す。一馬さんはこれを「たれ文化」といい、「日本が世界に誇れる味の文化」だと断言する。

 老舗とは、店と客とのさまざまなエピソードの宝庫である。7代目を継ぐ長男の一仁さんは、どんなドラマを見せてくれるだろうか。(谷口和巳)

 ◆駒形・前川 東京都台東区駒形2の1の29 (電)03・3841・6314

 ■たにぐち・かずみ 団塊世代の編集者。4つの出版社を転籍、19の雑誌に携わり、編集長として4誌を創刊。団塊世代向け月刊誌『ゴーギャン』元編集長。『女優森光子 大正・昭和・平成−八十八年激動の軌跡−』『帝国ホテルの流儀』(共に集英社)などの書籍も手掛ける。

 

注目情報(PR)

産経デジタルサービス

産経アプリスタ

アプリやスマホの情報・レビューが満載。オススメアプリやiPhone・Androidの使いこなし術も楽しめます。

産経オンライン英会話

実践で使える英会話を習得!業界最高峰の講師がサポートします。毎日話せて月5000円《まずは無料体験へ》

サイクリスト

ツール・ド・フランスから自転車通勤、ロードバイク試乗記まで、サイクリングのあらゆる楽しみを届けます。

サンスポ予想王TV

競馬などギャンブルの予想情報を一手にまとめたサイト。充実のレース情報で、勝利馬券をゲットしましょう!