牛丼チェーンのすき家や居酒屋のワタミが人手不足のため一部閉店したり、ユニクロが従業員の正社員化を進めるなど、デフレ下で成長した企業で人手不足の影響が出たり、人材確保を急ぐケースが相次いでいる。
人手不足によって生じる時給の上昇や正社員化は多くの人に良いことのはずであるが、一部メディアでは「企業が悲鳴」という形で報道されている。それらの報道では、人手不足や時給上昇の原因といえる「金融政策による景気回復」についてはほとんど触れないのも奇妙である。
デフレ下では、モノの価格が低下していくので、名目賃金などのコストを低下させられる企業が相対的に強くなる。その場合、正規社員は賃下げをやりにくいので、非正規社員が多いほうが対応が容易だ。名目賃金のコスト低下を過度にやると、「ブラック企業」というありがたくない称号をもらうこともある。
一方、マイルド(ゆるやかな)インフレ下では、コストの調整はそれほど難しくない。名目賃金を低下させる必要はなく、上げ幅の調整が中心となる。そして動かしにくい固定賃金ではなく、ボーナスや残業代などで柔軟に対応できるからだ。
マイルドインフレ下で有利な企業は、正規社員が多く、社員のスキルを長期的に活用できるところだ。業績のアップは、ボーナスや残業代によって労働者にすぐ還元される。こうした現象は、かつての日本の高度成長期では当たり前の姿だった。それと全く同じことはありえないが、似たようなものだ。
インフレ率2%になるまで、日銀は金融緩和を続けるというのであるから、人手不足は多くの業界にまで広がるはずだ。ただ、雇用は、景気に対して遅行する指標であるので、幅広い業界で人手不足を実感できるまでには少なくともあと1年を要するだろう。