為替トークはノイズだらけ 「有事の円買い」も根拠なし

2014.07.25

 ウクライナでのマレーシア機撃墜やイスラエルのガザ侵攻など地政学リスクが高まる事案が相次いだことで、為替市場では円高になったという。市場では「安全資産とされる円が買われた」と解説されることが多いのだが、地政学的リスクが浮上した際に円が買われるという構図は何を意味するのだろうか。

 まず、為替の決定理論を整理しておこう。数年間のスパンで見れば、通貨供給量や金利差を重視する「マネタリーアプローチ」の説明力が高い。これを実務の世界で応用しているのが、有名な投資家ジョージ・ソロス氏だ。「ソロスチャート」と呼ばれる各国のマネタリーベース(中央銀行が供給する資金)の比に大体為替は落ち着くというのは、マネタリーアプローチと本質的に同じだ。

 ちなみに、1985年9月のプラザ合意以降、実質的に日本は変動相場制になったと思われるが、円ドルレートと日米のマネタリーベース比は7割以上の相関がある。

 もう少し短い期間でみた円ドルレートはどうなるのだろうか。実務の世界で人気があるのは、日米の名目金利差だが、最近は、うまく説明できないともいわれる。しかし、名目金利ではなく、実質金利(=名目金利マイナス予想インフレ率)をとって、実質金利差とすると、うまく説明できる。

 本コラムの読者であれば、マネタリーベースと予想インフレ率に関係があるのをご存じだろう。実質日米金利差は、名目金利差に、日米のマネタリーベース比を加味したものであると解釈できるので、マネタリーベースの拡張版と考えることもできる。

 いずれにしても、長期も中期もマネタリーベースでかなりの部分を説明することができる。しかし、逆にいえば、短期の変動について説明することはできないのが実情だ。それもそのはずで、短期まで説明可能な理論があれば、収益機会が一切なくなり、為替ディーラーの出番はなくなる。

 だからこそ、短期での収益機会を目指して、為替市場では自己のポジションに有利になるように仕向けるポジション・トークばかりだ。そうしたものに理論的根拠はなく、統計でいえば、まず「ノイズ」(雑音)とみられるものばかりだ。

 「有事の円買い」というのも、筆者はノイズの類いだと思っている。過去には、「有事のドル買い」といわれていた。これは相対的にいえば「有事の円売り」だ。

 当時は、ドルが長く世界で信用ある通貨として流通してきた歴史があるとか、もっともらしく説明されていたが、単に投資家がそのような連想を持っていたために、一時的にドル高になっただけであろう。ちなみに、その騒ぎが収まると、いつしかドル高は修正されていた。その意味で、「有事のドル買い」もノイズだった。

 今回の「有事の円買い」も、日銀の金融緩和で円安になっていることを理解できない人たちが抱いている「もっと円高のはず」という投資家心理を反映した「ノイズ」ではないだろうか。日々の為替市場でのトークのほとんどはノイズと思っていい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

 

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