私は今年81歳。同時代を生きた先輩や同年代の人がどんどん逝ってしまう。戦時中、一緒に新潟に疎開した東京・深川の八名川小学校の同級生が、昨年、がんで亡くなった。数少ない生き残りの仲間だった。ショックだった。
この八名川小学校のクラス違いの同窓生が、桂小金治さんの奥さん。その縁で小金治さんとは長いつき合いだった。しかし、小金治さんも昨年11月3日に肺炎で亡くなった。88歳だった。その1週間後の11月10日、あの高倉健さんが悪性リンパ腫のため亡くなった。83歳だった。高倉健さんは麻布自動車のショールームに、よくいらしてくれた。
1981(昭和56)年、麻布自動車は東京・東麻布の本社ビルを改装し、1〜7階をすべてショールームにし、ロールスロイス、BMW、キャデラック、フェラーリ、ベンツに加えてエクスキャリバーなどのクラシック・カーも並べた。これほど名車を展示したのは世界にもない、と自負している。
評判を聞き、会社経営者やスポーツ選手、芸能人が多数集まった。ショールームは芸能界でも有名になっていた。
ある日、高倉健さんが1人でぶらりときて、並んであるクルマをじっくり見て回っていた。その後、コーヒーを飲みながら、クルマ談議をした。
といっても、健さんはやはり寡黙だった。「あのクルマ、どうなのかな」などとポツリと言うだけ。「この辺にお住まいなんですか?」と聞いても、「この裏ですよ」「そうですか」という調子。
後に無類のコーヒー好きだと知ったが、ウチのコーヒーは残さず飲んだので、いまになってホッとしている。そのキリッと締まった精悍(せいかん)な姿は絵になった。そして、1時間もすると帰っていった。