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私が1964年、フィナンシャル・タイムズ東京支局長として初来日したときに、世話をしてくれたのは麻生和子さんだった。吉田茂元首相の三女で、実業家の麻生太賀吉氏と結婚していた。麻生太郎副総理兼財務相や、三笠宮寛仁(ともひと)親王妃信子さまの母である。
和子さんは上品で魅力的な方だった。「日本にも英国と同じように上流階級がある」と思った。和子さんは、母の雪子さんが亡くなると、ファーストレディー代わりとして吉田氏の外遊に随行し、サンフランシスコ講和条約締結の会議にも出席している。戦後史で一定の役割を果たした方であり、もっと話を聞いておくべきだった。
日本に到着してホテルオークラに泊まっていたとき、吉田氏の側近だった白洲次郎氏が黒塗りのダイムラーに乗ってやってきた。次郎氏は流暢(りゅうちょう)な英語を話し、よく一緒に食事をした。彼は、日本人が最も自信を喪失していた時期に、「われわれは戦争に負けたが、奴隷になったのではない」と言い放つなど、日本人の気概を示した人物として知られる。
安倍晋三首相の祖父、岸信介元首相や、父の安倍晋太郎元外相にもインタビューをしたことがある。戦後70年、故人たちは現在の日本をどう思うだろう。
報道によると、韓国の元慰安婦2人が先日、第2次世界大戦中に受けた扱いが人権侵害だとして、日本政府や日本企業に2000万ドル(約26億円)の損害賠償を求める訴えを、米サンフランシスコの連邦地裁に起こしたという。訴訟対象には、昭和天皇や天皇陛下、岸氏、安倍首相、日本企業も含まれていた。