★若気の至りの話編
半年ほど前だったか、針治療のため、新宿・伊勢丹の前を歩いていたら、ご婦人から「喜太郎さん」と声をかけられた。
「おーっ、久しぶり」
この女性は1970年代に活躍していた演歌歌手のK。セクシーな衣装と藤圭子に似たハスキー・ボイスで、ヒットチャートの30位台まで上がるヒット曲もあった。しかし、あまり売れなかった。
実は約40年前、Kと“交際”していたことがある。と同時に、彼女のおかげで大金を失ったことも思い出した。
出会ったのは、わが麻布自動車のショールーム。クルマを見にきたKは小柄で細く、私好みのタイプだった。彼女を連れてきた某俳優のマネジャーが「口説いてみたらどうですか?」と言うので、誘ったら、意外にもOKのサインだった。
東京・麹町のマンションに部屋を用意し、週に1回ぐらい会いに行った。船で三宅島にも行った。ベンツの並行輸入の交渉でドイツに行ったときも連れていった。
5〜6年、つき合ったが、どちらからともなく「別れようか」となった。別れるに当たって、クルマを1台プレゼントした。ところが−−。
別れて数カ月後の元日の早朝、お手伝いさんが「会長、大変です」と起こしにきた。自宅の塀に「親戚(しんせき)の女の子をだました悪い奴」などと書かれた紙が貼られていた。近所や家族に知られる前にあわてて剥がした。