「普通」が生み出す昭和の味 新宿西口の「思い出横丁」

2015.10.30


若月@新宿西口思い出横丁【拡大】

 新宿西口の飲み屋街。今では「思い出横丁」なんていうしゃれた名前が付いているが昔はしょんべん横丁と言っていた。その中の一軒に「若月」はある。昔のラーメン本を眺めてみると2000年前後のものにはたまに載っている。しかし最近のラーメン本にはそんなに載っていない。

 私が監修して都内のラーメン本を出すとしても載らないであろう。嫌いだからではない。好きで何度も来ている店だ。「今」の人が知識なしで食べに行って「今風」のラーメンと比較しても苦言しか出てこないと思うからだ。

 そういう店ではあるが、最近出たサニーデイサービスの田中貴さんのラーメン本「Ra:」には大きく取り上げられている。正直、この本には「やられた」と思った。ラーメンマニアがラーメン本を作るとしたらこんな本を作りたい、という理想本がそこにあった。だから「やられた」という気持ちだったし、この本の構成と内容に大いに嫉妬した。逆にこういう本だからこそ「若月」は生きてくる。

 この日もカウンターのみの狭い店内に椅子はてんでバラバラに並んでいる。19時過ぎだったが、ほとんどの人がビールを飲み、その半分は焼きそばがつまみだ。

 右隣のおっちゃんは「巨人の監督は誰になると思う? 高橋かね?」と店主に聞いている。店主は「松井とかどうなのよ」と答えながらも他の人の注文を聞いたり、時折焼きそばを炒め直したりしている。今どきラーメン店で次の巨人監督の話題はなかなか出ない。

 ブロガーあるいはレビュアーが「この麺は全粒粉ですか? 製麺所はどこですか?」なんていう会話が店主と交わされるくらいだ。

 そういや、この思い出横丁には外国人が増えた。左隣も外国人だったし、この店に来るまでに何人もの外国人とすれ違った。他にも外国の取材クルーもいた。そんな横丁になっていたのだ。

 いろんな思いが交錯しながら私は480円の自家製麺のラーメンをすすっている。私は会津から出てきて、東京でいろんな麺と出合ったが、ここに来たときに懐かしさを覚えた。もう30年近く前の話である。細かく言うと随分違うのだが、会津のラーメン(喜多方含む)の麺に似たところがあるのだ。

 手打ち風で太めの手もみ麺。私はこういう麺がたまらなく好きだ。子供の頃にこういう麺をよく食べたからであろう。スープも具材も飾り気のない「普通」を絵に描いたようなルックス。そして480円。餃子やビールも頼まないと申し訳ない気分だ。しばらくしたら焼きそばを食べに来てみようと思いながら店を後にした。

 ■ラーメン耳寄り情報 若月@新宿西口思い出横丁
 昭和23年創業。新宿の高層ビル群とは裏腹に駅前なのに妙に昭和臭い飲食街。その一角にあるラーメン店。太めの手もみちぢれ麺が心地良い食感。「普通」のスープに「普通」の具で「普通」の味わい。そんな「普通」の一杯は、今ではそうそう食べられない。今どき貴重な「普通」のおいしいラーメン。

 ■大崎裕史(おおさき・ひろし) 自称「日本一ラーメンを食べた男」。2015年9月現在で1万1500軒、2万3000杯のラーメンを食破。株式会社ラーメンデータバンク代表取締役、日本ラーメン協会理事。Webおよび携帯の「ラーメンバンク」を運営している。

 

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