朝日新聞の1月16日付の社説「株安と安倍政権 経済政策に『百年の計』を」を見てびっくりした。日銀の異次元金融緩和について、《「見えない国民負担」が隠されている》として、日銀が高値で国債を大量購入しているが、景気がよくなれば国債価格は下落し、《その局面での金融引き締めは日銀には逆ざやとなって巨額損失が見込まれる》と指摘したのだ。
実はこの種の議論は、15年以上前から行われている。かつてローレンス・サマーズ元米財務長官が来日したとき、日銀関係者から同様の質問が出たことがあるが、サマーズ氏は一言、「So what?」であった。それがどうかしたのか、とあきれて返答したのだ。
経済学者であれば、政府と中央銀行を合算する「統合政府」という考え方を知っている。その観点では、日銀の「資産」である保有国債の評価損は、政府の「負債」である国債の評価益となるため、合算してみれば問題ない−ということになる。
中央銀行の国債購入は、カネを刷って行う。つまり、国債購入額は通貨発行益(シニョレッジ)の範囲内である。もちろん、実際の日銀会計で通貨発行益が一気に発生するわけではないが、毎年の日銀の利益を合算すれば、基本的に通貨発行益となる。評価損が発生しても、それは通貨発行益の一部でしかなく、統合政府でみれば何の問題もない。
ベン・バーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長が来日した時にも、同じような質問があった。バーナンキ氏はサマーズ氏より親切丁寧なので、「心配無用だが、どうしても心配なら政府と日銀の間で損失補填(ほてん)契約を結べばいい」と答えている。