死に場所を探して(3) 「遺書は書かないんですか?」

★死に場所を探して(3)

2016.02.25

 マンションの屋上で坂下トオル(15)=仮名=と会った翌日、小早川絵里(24)=同=は無断で会社を休んだ。

 のんびり10時過ぎに起き出して、コーヒーを飲んだ。同僚から3回目の着信を受けたところでアドレス帳を全て削除し、スマートフォンの電源を切った。念のために電話線も抜いた。少しぐらいは身の回りの整理をしようかと考えて、結局やめてしまった。

 残っていたパンで軽く昼食を済ませてから、またマンションの屋上に向かった。

 鍵は開いていた。

 やけに色の薄い青空の中を雲がのんびりと泳いでいく。マンションやアパートだらけで面白みのない景色だが、自分にはふさわしく感じられる。

 つまらない人生だった。突然生きることに見切りをつけられるぐらいに。

 少し離れたところに、ここよりも高いマンションを見つけた。何だか負けた気がした。

 あそこから飛び降りようかな…と考えて、やめる。もうこの計画は自分だけのものではないのだ。おかしな話だが。

 目を閉じると風を強く感じた。自分の死を後押しするかのように。

 ここから飛び降りる。

 ふわりとした浮遊感か、重力に強引に引っ張られるような感じなのか。目を開けて体を傾けてみる。

 「今日死ぬ日だっけ?」

 「…2日後よ」

 振り向くと、トオルがいた。トオルはいろいろ話してくれた。学校や勉強や家族のこと。そして「こんなに自分の話をしたの初めて」と笑った。

 それは自分が死ぬからだろうと絵里は思った。

 ここで語られたことは独り言になる。秘密を知った相手は消えるのだから。自分が消えたら、トオルは1人になる。

 それが少し気がかりだった。次の日もその次の日も午後1時になると屋上へ行った。

 トオルは必ずそこにいた。

 「遺書は書かないんですか?」

 トオルが首をかしげるので、必要な気がしてきた。その晩、机に向かうも何も思い浮かばず、徹夜するはめになった。 (つづく)

 

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