日銀の量的緩和実施後、雇用は改善しているが、物価の上昇率は目標に達していない状態が続いている。
2013年4月の量的緩和開始以降、物価上昇率は順調に高くなった。直前の同年3月、消費者物価上昇率(対前年同月比、総合)はマイナス0・9%であったが、14年5月には消費増税の影響抜きで1・6%程度まで上昇し、目標の2%まであと一歩だった。
その後、消費増税の影響で総需要が減退し、国内総生産(GDP)ギャップ(潜在GDPと現実との差)が拡大して物価が下がりだした。15年12月の物価上昇率は0・2%だった。
最近、日銀から発表された研究でも、量的緩和は「15年第3四半期までの累積でみると、GDPギャップを3%強、インフレ率を約1%押し上げる効果を持つ。この間、実際のGDPギャップが2%程度しか改善していないのは、消費税率引き上げや海外経済成長の下振れなど、マイナスの需給ショックが影響したためと考えられる」としている。
一方、完全失業率は13年3月に4・1%だったが、その後は一貫して低下傾向で、15年12月は3・3%だった。
物価上昇率とインフレ率が逆相関(一方が増えるともう一方が減る)の関係にあることは、フィリップス曲線として知られている。これは、GDPギャップを通じて説明できる。GDPギャップが小さくなれば、物価上昇率が高くなり、失業率は低くなる。逆にGDPギャップが拡大すれば、物価上昇率が低くなって、失業率が高くなる。
いずれにしても、物価上昇率と失業率の関係が安定的であれば、「インフレ目標」を定めることは「失業率目標」を定めることにもなる。国の経済政策の目標として、雇用が何より重要なのはいうまでもない。インフレ目標は雇用の安定化のためにあるといっても過言ではない。