その結果、イトーヨーカ堂はバブル経済崩壊後、不良債権を抱えずに済んだわけだが。伊藤さん自身は、「渡辺さん、ウチも少しは借金しているよ」と“ケチ”といわれることが心外だったようだ。
ある日、喜連川カントリーに伊藤さんが夫婦でいらした。「伊藤です」と言われた従業員が「どちらの伊藤さんですか?」。伊藤さんは「そんな面倒なことするならいいや」とそのまま帰ってしまった。その話を聞き、私は「理事に何てことを」と従業員を怒ったが、あとの祭り。温厚な伊藤さんにも、こんな一面があるのかと思った。
今回、伊藤さんが人事案に反対した背景には、鈴木会長が将来のトップに、セブン&アイの取締役に就任している次男を充てようと画策したからだといわれる。伊藤さんの次男も同社の取締役だが、経営中枢のポストではない。
やはり引き際と後継者の育成は難しい。西武鉄道グループ、ダイエーのように、会社のかじ取りを誤ることだってある。
■渡辺喜太郎(わたなべ・きたろう) 麻布自動車会長。1934年、東京・深川生まれ。22歳で自動車販売会社を設立。不動産業にも進出し、港区に165カ所の土地や建物、ハワイに6つの高級ホテルなど所有し、資産55億ドルで「世界6位」の大富豪に。しかし、バブル崩壊で資産を処分、債務整理を終えた。現在は講演活動などを行っている。著書に『人との出会いがカネを生む/ワルの交遊術50』(仁パブリッシング)。