「赤字国債の増大は問題だ」「国の借金を早く返して後の世代にツケを残さないようにすべきだ」といった論調は、道徳的には多くの人に受け入れられやすい。ただし、国が財政政策や経済政策を行ううえで、こうした道徳的な常識は、正しい経済理論とは異なることもあり、弊害が生じる場合もある。
学生にマクロ経済学を教えるとき、一見、不道徳にみえる経済政策を理解させなければいけないこともある。経済学でいう「合成の誤謬(ごびゅう)」で、ミクロ経済の個人行動としては道徳的なことでも、みんなでやるとマクロ経済で困ったことになるという話だ。
その典型例が、倹約や借金をなくそうとすることだ。個人にとって倹約はいいことでも、みんなでやると消費が落ち込み、不況になって、結果的にみんなの所得が少なくなり、失業が発生してしまう。また、政府の借金である国債をなくそうとすると、超緊縮財政になって、国民経済は大きなダメージを受けるだろう。
「借金をしないほうがいい」という道徳心は、実はビジネスの常識に反しているともいえる。ビジネスは基本的には自己資金ではまかなえないので、他人から資金を調達して事業を興す。借金を持たないという段階で、ビジネスを否定していることになってしまう。
経済新聞などでは、経営困難に陥った会社を徹底的に叩くことが多い。経営上の判断ミスであればその通りであるが、借金を増やしたこと自体を道徳的に批判するのは筋違いだ。
借金を経済的にきちんと理解するためには、バランスシート(=B/S、貸借対照表)が必須である。借金がいくらあっても、それに見合う資産があれば経済的には問題はない。




