北朝鮮に権力闘争の予兆…“後継者”金正恩の破滅シナリオ

2011.12.26


拍手する金正恩氏(共同)【拡大】

 北朝鮮は金正日総書記の死去により、三男・正恩氏(28)を序列1位とした体制がスタートした。しかし、若き指導者には経験や実績の不足といった懸念材料が多く、先行きは不透明だ。正恩氏の後見人として国防副委員長、張成沢氏(65)は序列19位ながらナンバー2級の地位がアピールされており、すでに国を足元から揺るがす権力闘争の予兆もみられる。失脚へと追い込まれる場合、どのような事態が想定されるのか。専門家の分析で、三代目破滅のシナリオを検証した。

 故金日成主席が1994年に死去し、金総書記へ権力が移行したときとは全く異なる点が2つある。ひとつは、金総書記は約20年かけて後継者の足場を固めたが、正恩氏は1年3カ月足らずだったこと。もうひとつは、94年よりも経済は格段に悪化し、国民の多くが飢えて不満が蓄積されていることだ。

 現代コリア研究所の佐藤勝巳所長は、「正恩氏が最も恐れているのは、ナンバー2の座をめぐる権力闘争によって機能不全に陥ること」とみている。

 「序列が第一の組織では内ゲバが避けられない。父・正日氏のように押さえ込む力があるとは思えず、収拾がつかなくなる。こうなったとき北を支援する中国が背後で動き、正恩氏の代わりにマカオにいる親中派の長男・正男氏を立てた政権樹立を企てるだろう」

 経済で行き詰まった北にとって、中国からの支援は生命線。また、中国にとっても北は地政学的にみて重要だ。

 「38度線は中国が死守したい防衛ライン。混乱に乗じて親米、反中の体制に移行するのは何としても避けたい。正恩氏の体制で内ゲバを抑えられなければ、中国はすぐに動く。今、最も注目すべきは28日に行われる葬儀。幹部の並ぶ順番が、発表された葬儀委員会名簿の序列と変化があった場合、権力闘争がすでに始まっていることを示すからだ」(佐藤氏)

 権力の移行期では、前体制で厚遇されてきた勢力の動きから目が離せない。元航空自衛隊員の軍事ジャーナリスト、鍛冶俊樹氏は「正日氏が強化し、庇護してきた核開発と特殊部隊の関係者が不満分子となり、正恩氏を権力トップの座から追い落とす」と指摘する。

 「困窮が著しい北で正恩氏が最優先で考えているのは、対米関係の改善で支援を引き出すこと。ところが、米国は支援との交換条件に核開発の停止、特殊部隊の大幅削減を要求してくるとみられ、正恩氏はこれを飲むしかない。優遇されてきた核開発関係者と特殊部隊は失業となり、大多数の北朝鮮国民と同じ飢えにさらされる。この事態を避けるには反乱しかない」

 正恩後の体制は、「ミャンマーで1988年に軍部がクーデターを起こした後のように、軍事政権による集団指導体制へと移行する」(鍛冶氏)との流れで確立されるようだ。

 ただ、正恩体制は容易に崩壊しないとの見方もある。2005年3月まで外務省北東アジア課北朝鮮班長として北朝鮮外交の最前線にいた原田武夫氏=シンクタンク代表=は、「経済を豊かにしていく路線が頓挫したときに失脚することはあり得るが、現状では考えにくい」と分析する。

 「米国のブッシュ前政権は発足当初に北の体制について全面的な変革を求めたが、中国が猛反発。周辺国にとっては難民の流出が最大の問題だからだ。そこで各国は、強硬な正日氏というトップだけをすげ替え、体制は維持させる方針へと転換した。今回、体制の移行はいい形、かつ非常によいタイミングで行われた」

 原田氏が重視しているのは米軍の動きだ。

 「先週、イラクでは米軍の完全撤退によりオバマ大統領が戦争の終結を宣言した。これは米国が再び戦闘可能になったことを示す。今の米国にイラクと北を相手にした二正面作戦は困難だったが、北朝鮮に注力できるようになった。米国との対峙を避けるため、北の体制移行はすべからく絶妙だったとみている。今後はマカオの正男氏がファンドマネジメントで稼ぐ資金を糧としながら、経済の安定を目指す正恩氏の体制が続くだろう」

 非核の看板を掲げたオバマ米大統領が来秋の大統領選を控え、北への関与を深めてくるのは必至。北を支援する中国の動きも気になる。まずは、正恩体制の基盤を崩壊させる権力闘争の前兆が表面化するのか、28日の葬儀が注目される。

 

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