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右ひじは最小限の動きで 大介と優美の恋の行方は (1/2ページ)

★(33)終幕

「差せ、差せ!」

東京競馬場のGIで大介は連呼しながら、無力感にさいなまれていた。

偶然サウナに居合わせた横領犯の最期の願いが、今でも心の隅にひっかかっていた。

 この日の前日、大介は線香だけでもあげたいと思い、香典と古新聞が1部入った紙袋を抱えて五反田の半田の自宅を訪ねた。大介を迎えたのは、重い心臓病に苦しむ色白で可憐な女子中学生だった。

 「長女の圭子です。どうぞお入りください。父がどんな様子だったのか知りたいです」

 「あなたのことを最期まで心配していましたよ。サウナの中では、新聞を読んでいたようです。これがそのときの新聞です」

 「お父さんは競馬が趣味で、いつも夕刊フジを読んでいました。この赤いペンで書かれた3つの数字は何ですか」

 「ああ、たぶんお父さんはその番号の馬券を買おうとメモしていたんでしょうね」

 その時、奥の襖が開き、半田の未亡人が姿をみせ、大介に白い封筒を渡した。

 「わざわざ、ありがとうございます。これも何かのご縁です。夫の供養にその数字の馬券を買ってきてもらえませんか。圭子の手術のために、この家も売却しますので、これだけしかないのですが」

 封筒に入っていた1万円で大介は3連単を1点買いしたのだが、かすりもせず。紙くずになった馬券を呆然と見つめていた。ところが…。

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