代打の“切り札”妻の誕生日は出塁率10割!

★元ヤクルト、大洋 ステーキハウス経営・岩下正明さん(56)

2011.09.21


妻とステーキハウスを経営する元プロ野球選手の岩下正明さん【拡大】

 勝負強い打撃で鳴らした元ヤクルト、大洋(現横浜)の岩下正明さん(56)。守備に難があり、もっぱら代打の切り札だったが、それでいてプロ生活9年間の通算出塁率・337は驚異的だ。特に、妻の百合子さん(54)の誕生日である4月6日には無類の強さを発揮した。現在、その愛妻と2人で切り盛りする「ステーキハウス岩下正明」が人気を博し、ネットや口コミで評判を広げている。(聞き手・宮脇広久)

 プロ生活で最も印象に残っているのは、3年目の1982年、広島戦(神宮)で打った代打満塁サヨナラ本塁打(史上7人目)。2−2で迎えた9回2死満塁、味方の先発投手の梶間さんの代打に出て、広島の福士投手から打ちました。そうです、これも4月6日、女房の誕生日でした。

 朝、自宅を出るときには、「ホームランを打ってくる」と約束しましたが、グラウンドに立てば、そんなことは頭になかったですよ(笑)。

 ただ、僕は女房の誕生日と本当に相性がよくて、1年目のプロ初打席で2点二塁打を打ったのも4月6日。四球で出塁した年もあり、女房の誕生日は出塁率10割だったと思います。

 ある年の4月6日、巨人戦で出番なしに終わったことがあり、試合後に「岩下はこの日は、ホームランかタイムリーしか打ったことがないんですよね」と言ったチームメートがいて、当時コーチだった丸山完二さんから「なぜそういうことを自分でアピールしないのか」と叱られました。僕は勝負の世界で生きる人間としては、のんびり派だったのかも。

 ドラフト4位でヤクルトに入団してから大洋に移籍するまでの8年間はずっと、(通算2173安打、後にヤクルト監督の)若松勉さんに文字通り付いて回りました。

 若松さんと僕は同じ左打者。背格好も、「小さな大打者」と呼ばれた若松さんが166センチで、僕が172センチ。そんなことから、入団当時の監督だった武上四郎さんが若松さんに「岩下の面倒を見てやれ」と言ってくださったことがきっかけ。

 試合前のキャッチボールも一緒。トス打撃では若松さんが上げてくれるボールを打ち、若松さんのトス打撃はじっくり観察して目に焼き付けました。遠征先の食事も「岩下、ついてこい」と誘っていただきました。

 僕が9年もプロ野球生活を送れたのは若松さんのおかげ。小さい体でどうすれば打てるのか、目の前に最高の見本が常にあったのですから。

 「岩下は肩さえ強ければレギュラーを取れるのに」とよく言われました。実は、現役時代には秘密にしていたのですが、肩が弱かったのではなく、指に問題があったのです。

 僕は鹿児島県指宿市の畜産農家の出身で、小学4年か5年のとき、鎌でわらを切っていて、誤って利き手の左手人さし指を爪半分くらい切り落としてしまった。このけがで、いったんは大好きな野球をあきらめ、中学では最初バレーボール部に入ったほどです。

 プロに入ってからも、指先が短い分、ボールが滑ってうまく投げられない。遠投も、プロであれば普通95メートルは投げられるところ、僕は80メートルが精いっぱいでした。

 それでも、通算打率は・261にすぎませんが出塁率は・337。3回に1度以上は塁に出ていたわけで、胸を張れる成績だと思います。僕ら代打屋は、ヒットを打つことより、塁に出ることが先決。ボールがバットに当たったら全力で一塁を駆け抜ける−それだけは心がけていました。

 現役引退後、若松さんの行きつけでもあった東京・渋谷の日本料理店で修業させてもらい、その後いくつかのステーキハウスに勤め、自分の店をオープンしたのは91年の12月です。

 基本的に、調理場は僕1人、接客は妻1人。忙しい時には友人に皿洗いを手伝ってもらっています。幸いネットなどでご好評をいただいているようですが、友人や娘が教えてくれるだけで、僕自身は携帯電話も持てない不器用な男ですから、よく知らないんですよ(笑)。

 プロ野球生活を振り返ると、夢の中で見たことのようで、本当に現実だったのかと不安になるくらい。いまでも夢に見るのは、7年間を過ごした社会人時代のこと。僕は夢の中で、毎年ドラフト会議の時期に「今年は指名されるかな? またダメかな?」とドキドキしているのです。

 ですから、将来の夢は何かと聞かれれば、いまだに「野球選手になること」なのかもしれません(笑)。

 ■いわした・まさあき 1955年1月14日、鹿児島県生まれ。左投左打の外野手。鹿児島商工高から三菱重工横浜を経て、79年のドラフト4位でヤクルトに指名され入団。代打の切り札として活躍した。88年に平田薫内野手との交換トレードで大洋に移籍したが、同年限りで引退。通算623試合出場、264安打、14本塁打、115打点、打率・261、出塁率・337。現在は横浜市青葉区で「ステーキハウス岩下正明」を経営。家族は妻と娘1人、息子2人。

 【ステーキハウス岩下正明】 東急田園都市線・たまプラーザ駅から徒歩3分。横浜市青葉区美しが丘2の14の12、T・Iビル2階。(電)045・903・9287。定休日は毎週月曜と第3火曜。営業時間は11時半〜14時。ディナーは平日17時半〜22時(L・O)、日・祭日17時〜21時(同)。

 

注目情報(PR)