女子ボクシングでオリンピックを目指して頑張っている南海キャンディーズの「しずちゃん」こと、山崎静代さん。私もファンの1人で応援していたのですが、過去においてMRIで検査の結果、脳に影があったことが判明したといいます。
ボクシングは、相手を倒すために打撃が頭部に集中し、その結果ダメージが蓄積されてしまいがちです。数ある格闘技の中でも、頭部へのダメージが一番多いスポーツとされています。
意外に思われるかも知れませんが、蹴り技を使うKー1やキックボクシングのほうが頭部へのダメージは少ない。攻撃が集中することがなく、分散しやすいためです。また、UFCに代表される総合格闘技は、組んでからの投げ技、関節技、さらには、倒してからの寝技も許されておりますので、より頭部へのダメージは少ないと言えるでしょう。
しかも、Kー1やUFCは3ラウンドなのに対して、ボクシングは6ラウンドから12ラウンドまでの長い時間を戦います。観戦すると、総合格闘技やKー1のほうが蹴り技があったり投げや寝技があるので過激に見えますが、頭部へのダメージの負担はボクシングとは比べ物にならないくらい軽い。さらに選手は、過激な減量を克服して、極限状態で試合に臨むので体への負担は私たちが考える以上に大きくなります。
さらに、もうひとつ大きな要素が足元にあります。Kー1や総合格闘技の選手が裸足で戦うことを義務付けられているのにお気付きでしょうか。あれも選手への負担軽減のための措置です。
シューズを履くと履かないでは、パンチの威力はずいぶん変わります。
履くと、足が滑らなくなり、下半身のパワーを拳に伝えることがより容易になる。その結果、パンチ力が増大するのであります。ボクシングの選手があれだけ華麗でスピードあるパンチを連打できるのは、ボクシングシューズを履いているからです。
リングはキャンバス生地でできているので、裸足では滑りやすい。グリップを効かせて放つボクシングのパンチの破壊力は、他の格闘技を圧倒するのであります。
ですから、ボクシングでは、まず攻撃以上にしっかりと防御、つまりディフェンス技術をマスターして試合に備えなければなりません。思うに、しずちゃんはディフェンスが甘かったのでしょう。そのあたりの事情を把握した上で試合を見ると、競技の魅力がより伝わるのではないでしょうか。押忍!!
■石井和義(いしい・かずよし) 空手団体「正道会館」宗師で、格闘技イベント「K−1」創始者。著書に「空手超バカ一代」(文藝春秋刊)がある。