−−魚が危ない!−−
「表示」の怪(5)

高級感をくすぐるうまい“通り名

 「銀むつ」を食べたことはおありだろうか。

 定食屋の煮魚だけでなく、今や京都の老舗・西京漬けにも使われるこの魚。実は本名(標準和名)をマジュランアイナメという。南米大陸の最南端パタゴニア、フォークランド周辺から南極大陸にかけてに生息する。

 スーパーなどでパックをよく見ると、「銀むつ(メロ)」と表示されている。一般的な名称はメロで、「銀むつ」は日本の鮮魚店だけで通用する名称。本名が示す通り、「むつ」とは縁もゆかりもないのだが…。

 ちなみに、アルゼンチンでは“銀”ならぬ「メルルーサ・ネグラ(黒いメルルーサ)」と呼ばれ、高級魚ではあるらしい。それにしても「銀むつ」とは、高級感をくすぐるうまい“通り名”をつけたものだ。

 では、「ティラピア」はどうか。熱帯魚のイメージが強いが、気づかぬうちにもう食べている可能性は高い。

 食卓にのぼるときの名は「イズミダイ」。南米からの輸入も多いが、日本でも食用魚としての歴史は深く、40年ほど前に中東から養殖魚として輸入。マダイの代用品としても利用された。

 ところで、記者は数年前、取材で訪れた北海道で、土産にと市場で購入した「子持ちシシャモ」のおいしさが今も忘れられない。

 「東京の居酒屋で食べていたパサパサの魚とは別のものではないか」と思ったのだが、本当に「別モノ」だった。水産庁によると、国内で出回っている9割は「カペリン」という魚なのだ。

 回転ずしの「エンガワ」はヒラメのものではなく、ロシアなどで獲れる「カラスガレイ」のものであることは、そろそろ周知の事実となりつつある。また、アワビの偽物として話題になったチリ産「ロコ貝」は今も「チリーアワビ」として売られている。

 だが、こうした通称は、JAS(日本農林規格)法上は違法でない。輸入魚などで、通称が「一般に認知されている」場合、表示してよい(メロなどは併記)ことになっているからだ。

 「流通業に携わる人は、少しでも高級感が出るほうがいいと考えるのだろうけれど、いかにも誤認を生むのようなものはいかがなものか」と苦笑するのは、全国漁業協同組合連合会の高浜彰・漁政部長代理。

 中には、明らかに違法の例もある。高浜氏によると、小売店で高級魚の「アマダイ」として売られていた切り身が、南米などで獲れる身の赤い「キングクリップ」という魚だったことがあるという。

 最近では、山梨県内の食料品店がカペリンとは別の「キュウリウオ」をシシャモとして販売、県から景品表示法違反(不当表示)で注意を受けている。カペリンとの差は「キュウリウオは“本名”で認知されている」(担当者)からだとか。

 消費者にしてみれば、「認知した」覚えはまったくないのだが…。

(内藤敦子)


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