−−痴漢冤罪の恐怖−−
あなたも犯人に…(2)

被告、原告−両者に矛盾が見える

痴漢冤罪の恐怖 ◇わざわざ混雑した電車に乗った

 「特にパソコンの趣味があるわけでもないのに、休日に普段より早起きして秋葉原に行く理由は考えられない」−。

 2000年2月23日朝、事件があった電車に乗ったのは、「秋葉原にパソコンを見に行くため」と説明していた窪田義晴さん(30)=仮名=の行動を、須藤典明裁判長は、こう結論づけた。

 《刑事裁判で無罪が確定した義晴さんが、被害者を相手取って慰謝料など約470万円を求めた民事の判決は9月6日、原告側の請求が棄却され、全面敗訴となった》

 義晴さんは事件当時、アルバイト勤務していた酒販店をまもなくリストラされ、今は都内のパソコン関連会社の契約社員。パソコンの趣味があるかどうかは不明だが、確かに当時の行動は一見、不自然な点が多い。

 事件時、水戸市に住んでいた義晴さんは午前6時過ぎの常磐線通勤快速に乗車。同8時過ぎには、秋葉原に着く計算だ。確かに「パソコンを見る」ほかに明確な理由がないのに、わざわざ混雑する電車に乗るのは、不自然といえば不自然だ。

 「早ければ朝飯を食ったりとかしようと思って」という義晴さんの言葉を、裁判官は「ほとんどその場しのぎとしか思えない」としている。

◇満員電車、裁判官は理解できない?

 また、当初座っていた義晴さんが、途中の土浦駅でいったん電車を降り、同じ電車の違う車両に乗り込み、入り口ドア付近に立っていたことも明らかになっている。

 義晴さん側は「降りたのは、気分が悪くなったため。刑事裁判で十分検討された中身であるはず」と反論する。

 これに、裁判所側の見方は「いったんホームに出るにしても、席に何か置いて再び座れるようにする」とか、「車内の奥に立つことも可能だったのに、わざわざ入り口ドア付近に立つのは理解しにくい」と断じているが、一般人の感覚と乖離していると思われる方も多いのではないか。

 一部には「満員の通勤電車など、ほとんど乗る機会がない裁判官にとって、寄りかかることができる入り口付近に一般的に立ちたがる人が多いのは理解できないのだろう」との声もある。座席に物を置くことも立っている人がいる状況では、常識的にやりにくい。

◇痴漢被害を、「初めて」と説明

 一方、高校を卒業し、今はパート店員を務め、被害者ながら被告となった小川美紀さん(19)=同=の供述はどうか。

 検察官の聴取と実況見分で、「変遷し、信用性が低い」と判断された刑事裁判の供述も、民事では、裁判官が美紀さんの性格から「気後れして訂正を言い出せなかったのも不自然とは言い切れない」と判断。確かに、過去を思い出す際、子細な部分で間違いがあるのは当然だろう。

 義晴さん側が主張する、「怖くて抵抗できなかったのに、ホームに降りた途端、現行犯逮捕するのは整合しない」との点も、「電車内よりホームの方が駅員などもいる」という美紀さん側の理由は理にかなっている。

 だが、民事の判決では取り上げられなかったが、刑事で証人として出廷した美紀さんの母親は「娘が痴漢にあったのは初めて。怖くて学校にも行けなくなった」などと証言していた。

 前回でも触れたが、美紀さんはこの事件前後に少なくとも5件の痴漢被害で示談をしている。示談は美紀さんだけでなく、母親も立ち会ったとされ、義晴さんとの事件の前日と翌日にも痴漢にあっているのだ。

 裁判は義晴さん側が控訴することで、さらに続く。供述の信用性、裁判官の心証などから覆された今回の判決が、高裁でどちらに転ぶのか。

(兼松康)


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