−−痴漢冤罪の恐怖−−
あなたも犯人に…(3)

冤罪裁判中に離婚する人も

痴漢冤罪の恐怖 ◇車内の携帯を注意して…

 「『被害者』という女性の供述だけを根拠に誰もが逮捕拘留されてしまう恐ろしい現実を体験し、いまだに忘れ去ることができない。こみ上げる怒りを抑えられない」

 99年9月、痴漢冤罪で逮捕された会社員、沖田光男さん(60)は、こう述懐する。

 沖田さんはJR中央線の車内で携帯電話を使用していた女性に注意したところ、下車後、その女性が痴漢被害を訴えたとして、逮捕された。嫌疑不十分で不起訴となるまで21日間の拘留を余儀なくされた。

 沖田さんは今、痴漢冤罪の撲滅と被害者の名誉回復を訴える「痴漢えん罪被害者ネットワーク」の会員として、活動を続けている。ネットワークは今年7月15日、結成集会が開かれたばかりの市民団体。

 「全国に痴漢冤罪事件が結構あるということは知れ渡ってきた。でも、それぞれが個別で、こんなときは、どんな風にすればいいのか、という横のつながりはなかった」という状況に気付いたのが、痴漢冤罪の被害者を弁護する弁護士たち。

 今年2月には、全国の弁護士有志約20人が「全国痴漢冤罪弁護団」を結成した。ネットワークは、こうした弁護士団と関係を保ちながら、冤罪被害者となった13人が中心となって、結成を呼びかけた。メンバーは被害を受けた本人や、風評被害など間接的に痛手を負った家族ら約100人。

 活動内容は、検察・警察の不正な取り調べの実態を告発し、証拠に基づいた公正な裁判を要請することや冤罪被害者に対する街頭応援で、痴漢冤罪を広く知ってもらうことが中心。11月26日にも大会を開く。

 「被害者を励ますことも重要」な活動で、相談には「私を支えていてくれた妻も裁判が長引いてついに離婚。精神的に参ってしまった。どうすればいいのか」といった切実な声もあるという。

◇半年間も拘置される

 会員の1人で、40代の清川聡さん=仮名=は東京都杉並区の路上でOL(当時23)の背後からワンピースの裾をまくり、右手を下着の中に入れ陰部を触ったなどという強制わいせつで、平成11年7月に逮捕された。その後、実に半年間、拘置され、1審での執行猶予付き有罪判決から、控訴審で逆転無罪を勝ち取るまで1年を要した。

 その後、清川さんは女性と東京都、国の3者に約1500万円の損害賠償を求めて提訴。今月6日に出された判決では、いずれも棄却された。痴漢冤罪裁判の国賠訴訟の厳しさを知らしめたが、前出の沖田さんも不当逮捕・拘留などを理由に国賠訴訟で係争中だ。

 逮捕は被害者女性の供述がきっかけとなったが、彼女は民事の法廷で「何度も違うかもしれないと言ったのに、『警察が責任を持つ』『後戻りはできない』と告訴状を提出することを余儀なくされた」という趣旨の発言をして、改めて警察や検察の痴漢捜査のあり方に波紋を広げた。

 ネットワークには、1年近く服役し、再審を準備している人もいる。

 最高裁の資料では、90年からの10年間は痴漢裁判の無罪判決はなかった。だが、痴漢冤罪が叫ばれるようになった2000年には、8件の無罪判決。翌01年も3件の無罪判決が出ている。

 ネットワークでは「マスコミが注目すれば、まじめな裁判をするが、誰も見ていなければ証拠がなくても有罪にしてしまう」と断じ、「この国の司法を、どうしても変えなければならない」と訴えている。

(兼松康)


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