−−トラを変えた男−−
〜星野の実像〜(1)

典型的なジジ殺し

以前に比べ、我慢のコメントも増えた
以前に比べ、我慢のコメントも増えた
◇たった1度のゴルフで、ドンを味方に

 美しい日本語を操るスポーツアナウウンサーの大御所から、少々品のない言葉が飛び出した。

 「星野監督? うーん、ひと言でいうと、典型的なジジ殺しですね」

 NHKアナとして、夏冬合わせ10回の五輪を実況し、退局後、横浜国際競技場長を務めたスポーツアナリストの西田善夫氏(67)は、阪神・星野仙一監督(56)の魅力をそう表現する。

 中日引退後の昭和57年オフ、星野監督はNHK解説者に招かれた。人をひきつける話術を、現役当時から西田氏らNHK関係者が評価していたためだ。

 しかし、NHK解説者だった“球界のドン”川上哲治元巨人監督が異議を唱えた。

 「なんでコーチの経験もないヤツを解説者にするんだ」

 それが、川上氏とわずか1回ゴルフをし、食事しただけで、ドンを味方につけたという。

 「相手が誰でも本音でずけずけモノを言う。胸の内を素直に見せるから、相手も引き込まれる。中日の(故)加藤オーナーにもかわいがられたように、裏表のない面が魅力なんでしょう」

◇ああ我慢してる…

 西田氏が今年の阪神の試合でとりわけ印象に残っているのが、4月11日の巨人戦だ。

 九回に6点差を追いつかれ結局、延長十二回引き分けになり、楽しみにしていた勝利監督インタビューが立ち消えになった。ただ、翌日の新聞に載った『あそこまで行ったらふつう負ける。しかし負けんかった。そういう経験をしながら強くなる』とのコメントに、星野監督の成長をみた。

 「オールスターまでに、巨人戦が(28試合のうち)20試合。最初に叩けるだけ叩きたいと考えていたはず。それが勝てるゲームを引き分けたんだから、昔ならイスを蹴飛ばして荒れていたでしょう。“ああ、我慢してるなぁ”と思いました」

 かつては王監督にもたてついたことがあったように、“ジジ殺し”星野監督は目上の者、力の強い者にも信念を曲げず行動し、発言する。選手にも怒鳴り声をあげるが、かばってやることも忘れない。下の者、つまり選手は、星野監督が次にどんな言動をとるか楽しみにしていると、西田氏は分析する。

 「コメントの先にファンがいて、最終的には選手に伝わると認識はしているが、実は発言そのものは、その場、その場での瞬間的なアドリブ。政治家のような計算された小手先、口先だけの言葉じゃないから、選手は信頼してますよ」

 母子家庭で育ち、明治大では島岡監督に鍛えられるなど、苦労してきた経験が自然と相手を気遣ったコメントになる−。星野監督が東京六大学で投げていた頃からの付き合いという西田氏は、そう考えるのだ。

 ただ、最近は微妙な物言いが増えている。首位チームらしい発言が出てもいいのにと感じる。「さすがに意識してるのかな。仙ちゃんらしい、威勢のいいコメントも聞きたいですよね」という西田氏の思いは、頂点。

 「今年は(リーグ)優勝だけで終わったらダメよ。まだ(監督として)一度も日本一になってないんだから」

(伊藤洋一)

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 セ・リーグで首位を快走する阪神。10年連続Bクラスのチームを変革した指揮官、星野仙一監督の知られざる魅力と実力を徹底解剖する。



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