−−12歳の闇−−
〜駿ちゃん事件を追う!〜(4)

吉岡忍氏編

吉岡忍氏
吉岡忍氏
◇宮崎、酒鬼薔薇事件との“連鎖”

 「駿ちゃん事件の犯人が12歳の少年だったと聞いても、別に驚きはしなかった。神戸の酒鬼薔薇聖斗事件後に、刑事罰対象年齢が16歳から14歳に引き下げられたが、次に12歳、11歳、その次には間違いなく10歳、9歳の犯罪が出てくると予測していたから」

 『M/世界の、憂鬱な先端』(文芸春秋)で、宮崎勤被告=死刑判決で上告中=による連続幼女殺人事件と酒鬼薔薇事件を取材し、犯人の「心の闇」に迫ったノンフィクション作家、吉岡忍氏(56)は、両事件の後も断ち切れずにいる“不可解の連鎖”を指摘する。

 吉岡氏が注目するのは、補導された中学1年生の少年(12)が犯行当時を振り返った、「何をやっているか分からなかった」との言葉だ。

 「宮崎事件は『もう1人の自分』、酒鬼薔薇事件は自らの暴力衝動の化身という凶暴な犬『バルボス』や守護神『バモイドオキ神』。両事件には、生身の自分では不可能なことができる別のキャラクターを頭の中に誕生させ、その乖離(かいり)した人格に乗っ取られるようにして犯行に及び、生身の自分はそれを傍観していたという共通点がある」

 「別人格には2つの側面がある。一つは、自分はそのままで世界を小さくするパターン。現実よりコンパクトなTVゲームやアニメの世界観にのめりこみ、ゲーム感覚の犯行と結びつく。もう一つは自分の力を大きくしようとする傾向で、自分の絶対的な力を保証してくれる幼児を対象にした犯行と結びつく」

 ゲーム好きだったという少年。両事件との“類似点”が極めて多いことをうかがわせる。

 「今回の事件も同様ではないか。12歳少年の調査をどこが主導し、どこまで明らかにするかという問題はあるが、少年の心の軌跡はきちんとたどる必要がある」

 吉岡氏がこう強調するのは、取材・執筆の過程で、「宮崎事件も酒鬼薔薇事件もつぶさに検証すれば、社会とつながる(=大人になる)ところでつまずいたことが原因になって『別人格』が形成されていたことがわかった」ため。

 TVのコメンテーターや精神科医がさかんに指摘する、少年の「特殊な個性」や「屈折した性衝動」の問題とは一線を画す、社会の側の問題とする考え方だ。

 「かつては家族、学校といった身の回りの人間関係から、社会や世界へつながっていこうとする時、地域社会や終身雇用を前提とした企業社会がクッションの役割を果たした。それがこの10数年でなくなってしまった」

 この10数年にあったのは、日本中が浮かれたバブル経済と、その後に訪れた底なし不況。大人たちは株価に一喜一憂し、社会には今、リストラの嵐が吹き荒れている。

 「少年や青年は、そんなとげとげしい社会といきなり何の準備もなく向き合わなければならない。社会の面白さを伝える言葉を持たない大人たちの中で…。過去の2事件は実は、こうした社会とのつながりにくさが原因だったことを示していたのだが、世間は犯人の通俗化と特殊化にばかり躍起になっていた」

 今回の事件で、吉岡氏が懸念するのは、犯人特定に役立ったとされる街頭カメラの普及と、「アホな大臣が放った『両親を市中引き回しにすべき』発言の余波」だ。

 政治家が社会の問題として事件をとらえる大局観を持たず、「監視せよ」「つまみ出せ」では今まで以上に少年たちに社会への適応を迫ることになってしまうというわけだ。

 果たして、それで“連鎖”は断ち切れるのか。

 吉岡氏は予言する。

 「こうした俗論が大手を振るうバカげた風潮では、そのうち8歳、9歳の子が事件が起こすようになるだろう」

(櫃間訓)=この項、おわり


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