−−暴走空間−−
〜怪しいネットの魔力(1)〜

ハリウッド製海賊版

◇禁断の果実を得る快感

 ブロードバンドの急速な普及に伴い、「ファイル交換ソフト」の問題が深刻化している。回線速度が飛躍的に向上したことで、敬遠されてきた大型ファイル、映画やビデの海賊版が大量に流出。「無料」の気安さもあって、ユーザー数も急増し、「違法行為」の輪が拡大しているのだ。

 「欲しいタイトルを検索してダブルクリックするだけ。あまりにも簡単で罪悪感を感じるヒマもないぐらい」

 あるファイル交換ソフトの女性ユーザーは、その魔力をこう話す。

 交換歴半年で50本以上の映画をダウンロードしたという彼女が「最近ハマっている」のは、日本未公開の海賊版映画ファイルを探すことだ。

 「『海賊版』といっても字幕付き。最近は『ターミネーター3』を公開前に観た。手に入るはずのないものが手に入る快感は禁断の果実です」

 この1年、映画業界の頭を悩ませているのは、まさにこの問題だ。『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』『マトリックス・リローデッド』…と、大ヒット作の多くが、実は公開前から海賊版で流出していた。

 業界では「海賊版が広まると、多額の制作費をかけた制作者側の損失は大きく、意欲も失われてしまう」(外国映画輸入配給協会)と、ようやく危機感を強めている。

 ある映画制作会社の日本法人は流出ルート追跡のため、ネットオークションに出品されていた海賊版をわざわざ落札、九州に居住する中国人の海賊版制作者コピー集団を突きとめたという。

 だが、「一つひとつ対応していてもいたちごっこになる。業界としてどう対応するか、各社の担当者が話し合っている」(東宝東和)と、有効な対抗策を立てられずにいるのが現状だ。

 というのも、ファイル交換ソフトの仕組みが「P2P」と呼ばれるユーザー同士を直接結ぶネット技術を使っているため。「海賊版供給源」=「ほぼ全てのユーザー」となり、全てを著作権法違反で訴えることは事実上不可能だからだ。

 パソコンとネットがある限り、ファイル交換の無限連鎖を止めることは困難で、“川下”対策としてはユーザーのモラル啓発を急ぐほかない。

 もっとも、「なぜ、ビデオにもなっていない新作が公開前から流出するのか」という“川上”のナゾの解明は業界内の問題になりそうだ。

 『ロード…』海賊版が公開前からファイル交換やネットオークションに出回ったという日本ヘラルド宣伝部は「海賊版は劇場公開した本編とは、いくつかのシーンが違った」という。

 制作した米国では封切り前にいくつかのパターンを作り、試写でマーケティング調査をしており、このテスト版が流出したとみられる。

 また、米国で先行公開された作品では、「カム版」と呼ばれるビデオカメラで映画館のスクリーンを撮影した画質の劣るものも出回っている。

 米興行関係者は「1日に40万〜60万件の違法ダウロードがあり、世界で年間50億ドル(6000億円)の被害が出ているが、P2Pの海賊版には決め手となる対抗策がない…」とハリウッドでも高まる危機感を訴える。

 「著作権を持つ米映画会社でさえ打つ手がないのに、日本の配給会社に何ができるか」と本音を明かす関係者もいる。

× × ×

 今なお進化を続けるインターネット。その副産物として、次々に生み出される「深い闇」に潜む魔力を追った。

(櫃間訓)


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