【日本の解き方】「道徳的」な倹約や借金返済 みんなでやれば怖い結果に…政府債務は経済的に考える
「赤字国債の増大は問題だ」「国の借金を早く返して後の世代にツケを残さないようにすべきだ」といった論調は、道徳的には多くの人に受け入れられやすい。ただし、国が財政政策や経済政策を行ううえで、こうした道徳的な常識は、正しい経済理論とは異なることもあり、弊害が生じる場合もある。
学生にマクロ経済学を教えるとき、一見、不道徳にみえる経済政策を理解させなければいけないこともある。経済学でいう「合成の誤謬(ごびゅう)」で、ミクロ経済の個人行動としては道徳的なことでも、みんなでやるとマクロ経済で困ったことになるという話だ。
その典型例が、倹約や借金をなくそうとすることだ。個人にとって倹約はいいことでも、みんなでやると消費が落ち込み、不況になって、結果的にみんなの所得が少なくなり、失業が発生してしまう。また、政府の借金である国債をなくそうとすると、超緊縮財政になって、国民経済は大きなダメージを受けるだろう。
「借金をしないほうがいい」という道徳心は、実はビジネスの常識に反しているともいえる。ビジネスは基本的には自己資金ではまかなえないので、他人から資金を調達して事業を興す。借金を持たないという段階で、ビジネスを否定していることになってしまう。
経済新聞などでは、経営困難に陥った会社を徹底的に叩くことが多い。経営上の判断ミスであればその通りであるが、借金を増やしたこと自体を道徳的に批判するのは筋違いだ。
借金を経済的にきちんと理解するためには、バランスシート(=B/S、貸借対照表)が必須である。借金がいくらあっても、それに見合う資産があれば経済的には問題はない。
ところが、財務省は借金を道徳問題として扱おうとするために、政府債務をB/Sで説明せずに、B/Sの右側のグロス債務額だけで説明する。財務省の言いなりのマスコミも、政府債務をB/Sで捉える記事を書くことはほぼない。
筆者は、20年以上前に政府のB/Sを作成した当事者であり、その公表を十数年前に行った。当初の問題意識は、政府債務の問題を、道徳に依存するのではなく、日銀を含めた統合政府のB/Sによって経済的に国民が理解できるような情報公開を行うというものだった。
今月14日、政府の経済財政諮問会議で、ノーベル賞経済学者のスティグリッツ氏が意見表明した。その資料の中で「政府(日本銀行)が保有する政府債務を無効にする」という表現があった。この和訳は内閣府が行ったが、原文では「Cancelling」とあるので、「無効」ではなく「相殺」である。この意味は、政府債務を中央銀行を含めた統合政府のネット(資産を差し引いたもの)で見ろということだ。
せっかくのスティグリッツ氏の意見なのに、財務省もマスコミも積極的に伝えていないようだ。財務省やマスコミは政府債務問題を道徳で見るということでもいいのかもしれない。しかし、経済的に見なければならない国民の立場にとっては大問題である。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
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