★広陵・中井哲之監督(2)
夏の甲子園制覇へ、自身2度目の挑戦もはね返された。今年、またも決勝で敗れた中井哲之(55)は「もっと頑張れ、ということでしょう。リベンジは簡単ではない」とつぶやいた。
10年前の悪夢は、2007年(平成19年)夏の決勝。公立校の佐賀北を相手に7回まで4-0とリード。夏では初めての全国制覇が見えていた。
8回裏の守りは1死満塁。マウンドの野村祐輔(現広島)は2番打者へカウント3-1から外角へ直球を投げた。捕手の小林誠司(現巨人)が構えたミットはまったく動かなかったが、判定はボールで押し出し四球。
野村は呆然。小林はミットを3度も地面にたたきつけて抗議の意思を示した。これをきっかけにバッテリーは崩れ、次打者に逆転満塁本塁打を浴びて敗れた。試合後の中井の言葉を並べてみる。
「あれはないだろう、という判定が何球もあった。言ってはいけないことは分かっている。でも、言わないと高校野球は変わらない」
「判定に文句を言う教育はしていないし、小林はあんなことをする子じゃない。その子が言っているんだから…」
「選手は命を懸けている。審判の権限が強すぎる。高野連は考えてほしい。これで辞めろといわれるなら辞めます」
あえて、高校野球ではご法度の審判批判をする中井に、ネット裏は騒然となった。確かに、試合のムードが判官びいきだったことは否めない。無名だった公立校の優勝に、主催者と高野連が狂喜乱舞したのも事実。結局、高野連が中井の処分を「厳重注意」にとどめたことは、何かを物語っている。その時の中井の胸中はこうだった。
「優勝できなかった腹立ちまぎれじゃない。真っすぐ生きろ、と説いてきた生徒たちに、あの判定をどう説明すればいいのか。泣き寝入りしたら、私が生徒に何も言えなくなる」
この10年間、中井は歴代の部員に佐賀北戦のビデオを見せることを恒例としてきたが、「見て、私が一番泣いてきた」と苦笑いする。
“広陵男塾”を率いる男は「文句を言ったけど、あの時から指導方針はブレていない。悔しいと思ったからこそ頑張ってこれた。悔しいから、次の日も頑張れるんです」と胸を張った。(敬称略)=つづく