数軒の居酒屋を営んでいた同世代の友人から、新たに「ゴースト・レストラン」を始めたから食べてみてよといわれた。また今、現在営業している居酒屋も順次、その営業形態に変えていくと。都心エリアを中心として「ゴースト・レストラン」が流行(はや)っていて、夜中でも注文が途切れないような店もたくさんあるという。
実は、私はその時まで「ゴースト・レストラン」という言葉を知らず、そのキーワードを聞いたとき、お化けや妖怪などのコスプレをした店員さんが接客をするような、かつて流行ったアミューズメント的なレストランだと思った。
「何でこの寒い時期にオバケが流行っているのだろう…」
今さらながら、どうしてそんなレストランを展開するのかと尋ねた。彼は私の無知と勘違いに気がつき、大笑いした。
ゴーストという言葉はオバケではなく、コロナ禍によりニューヨークからはじまったスタイルで、店舗を持たないデリバリー専門の飲食店を表す新しい総称だというではないか。
テイクアウトを行うケースもあるが、基本的には、すべてオンラインでデリバリー業者に委託し、顧客と直接に関わることは一切ないという。
また「ゴーストキッチン」や「クラウドキッチン」とも呼ばれる。
デリバリー業者への配達委託料が3割以上もかかるというデメリットはあるが、店舗を飾り立てるための立ち上げ初期費用もなく、安ければ数十万円程度で開業可能で、複数の店舗でキッチンを共同利用することも可能だという。
ひとつのキッチンに投資するだけで、イタリアンとタイ料理、カレー専門店など、数店舗を同時に経営できるということだ。
客にはそれぞれが独立した「専門店」のようにうたっているので、何となくだまされたような気がしないでもない。
だが、イマドキの若い連中はそんなことを気にすることもなく、「ゴースト・レストラン」を使った自宅デートなども浸透しているようだ。
コロナ禍が飲食業界に与えた打撃は計り知れないが、新しい知恵に頼もしさを感じざるを得なかった。
今は昔、バブル時代にもてはやされた職業に、おしゃれな大型レストランやカフェ、ディスコなどをデザインする、「空間プロデューサー」というものがあった。
しかし時は無情に流れ去り、このコロナ時代には、現実の「空間」というモノ自体が「罪悪」となってしまった。すべてはオンラインで済ませと言わんばかりだ。
私たち世代にとっては嫌な時代である。こうした新しい流れに対して、居場所を奪われると恐怖する昭和世代もいるはずだ。だが時代の流れは、私たちの感傷などは気にもとめない。
おそらく演劇や映画ドラマにおいても、「ゴースト・レストラン」同様に、遅かれ早かれ新しい世代が想像もしなかった手法で乗り込んでくるであろう。だがそれを恐れることはないと思っている。その手の変化というものはプラットフォームが変わるだけだ。
「ゴースト・レストラン」に乗り出した友人も結局、最後は料理の味が勝負だと話していた。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画『首都高速トライアル』で俳優デビュー。90年には『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。主な出演番組は『アウト×デラックス』(フジテレビ系)など。YouTube公式チャンネル『大鶴義丹の他力本願』も随時更新中。映画『めぐみへの誓い』(2月19日公開予定)で辛光洙(シン・グヮンス)役を演じる。