2時間ドラマやVシネマにおいて「人を殺(あや)める役」は何十回と務めたことがある。死体を埋めるシーンなども経験した。演技だといっても、数日間は気分が良くないものだ。もしそれが現実ならと考えるだけで気持ちが悪くなる。
千葉県印西市の防火貯水槽内で男性の遺体が発見されたことが報道された。近くの印旛沼周辺で釣りやアウトドア遊びをしたことがあるので、その周辺の雰囲気は知っている。
新興住宅地が広がっている穏やかなエリアもあるが、場所によってはまだまだ昔ながらの「里山」で、ジャングルのような林もたくさんあり、夜ともなれば漆黒の闇に包まれるような場所も少なくない。
千葉県警は周辺の防犯カメラや関係者証言から、死体遺棄容疑で暴力団関係者の男女5人を逮捕した。また被害者の車を都内で乗りまわしていた別の事件関係者もいるという。その後の認否など詳細は明らかにされていないが、被害者は暴力団関係者と何らかのトラブルがあったとされている。
被害者男性は昨年10月16日に外出して行方不明、24日に妻が警察に相談、27日にトラブルに巻き込まれているという通報があり、28日に死体発見という経緯だ。
この報道の中で多くの方が戦慄したのは、被害者の死因は首を切られたことで、左足首も同市内で見つかっているということだ。
犯罪ドラマレベルの推理であるが、この状況から推測すると突発的な殺害ではなく、被害者への強い怨恨(えんこん)から「拷問」のようなことが行われた可能性もある。周辺関係者からトラブルの内容なども県警はつかんでいるようなので、比較的早い段階で事件の真相は解明されるだろう。
しかし、この事件はまれに見るほどに荒っぽく、ずさんな部分が見え隠れする。決して高い計画性や用意周到なようなものが見当たらず、まるでメキシコの麻薬組織などが行う抗争事件のようだ。
この手の怨恨事件は日本の警察は得意とするところで、人間関係や通信記録などからあぶり出されるのは時間の問題で、容疑者は捜査の手が伸びるとは感じなかったのだろうか。
凶行は行われた。ドラマや映画や小説ではない。本当に生きている人間同士の限界領域でのやり取りだ。被害者と犯人との間に、どんな会話や時間が流れたのかと考えるだけで息が詰まる。
だが、被害者と容疑者との間には、何らかの関係性があると報道されている。それがどんなモノなのかは推測の域を出ないが、そこらの小説よりも、はるかに深く恐ろしい物語が隠されているのだろう。
この悲惨な事件から私たちが学ぶべきことは、とにかく「厄介」な世界とは、冗談半分にも関わらないということだ。
私もVシネマなどでその世界や、今現在もシリーズもので悪徳“マルボウ”刑事を演じているが、こうした本物の世界の匂いを知ると、役者ごときの演技などでは到底たどり着けない領域があるのだと、現実の重みを思い知るばかりだ。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画『首都高速トライアル』で俳優デビュー。90年には『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。主な出演番組は『アウト×デラックス』(フジテレビ系)など。YouTube公式チャンネル『大鶴義丹の他力本願』も随時更新中。映画『めぐみへの誓い』(19日公開予定)で拉致の実行犯役を演じる。