テレビメーカーも残酷な演出をするものだ。
最新のテレビリモコンには、最初からネットフリックスやYouTubeなどのオンライン動画配信サービスの専用ボタンが当然の如く装着されている。
それも民放などのチャンネルより、派手な色合いで大きく装着されているのが印象的であった。まるでそのボタンのほうが主役だと言わんばかりの気の効いた演出である。若い女優に主役を奪われたベテラン女優のような哀愁だ。
メディア業界に関わる多くの関係者が空を仰いだのは、2019年に起きた現象であった。
2桁成長を続けるインターネット広告が初めて2兆円を突破し、「メディアの王様」と称され、何十年と首位に君臨してきたテレビの広告費を抜いたのだ。その差はさらに広がり続けている。私自身、テレビの世界で育ててもらったという愛も深いがゆえに言葉を失ってしまった。
10代ぐらいの世代の若者と話をすると、テレビは数多い選択肢の中の一つでしかなく、またはテレビをまったく見ないという。
私たちの世代のように、夕方からテレビの前に「かじりついて」いるのが基本パターンではないのだ。テレビ世代としてはショックではあるがそれが現実である。
結果、テレビ側のマーケティングとして、それが若者との乖離(かいり)という悪循環になることは分かっていても、「その癖」が残っているシニア層を狙うことになるのは自然な行動であろう。それが最後の牙城である。
だが、私自身もテレビで仕事をしている恩があるというのに、その牙城を崩すような「アリの一穴」な愚行に関わってしまった。
親戚付き合いをしている70代女性が、1週間前に最新の大型テレビを買った。ネットフリックスには韓国映画や韓国ドラマが見切れないほどあるという噂を聞き、私にセッティングしてくれという。
私は彼女の家に出向いて、ネットフリックスの登録を済ませ、番組の選び方や検索のやり方を教えた。最初は彼女は少し手間取っていたが、30分もすると大概の操作を覚えてしまった。
そして1週間くらいすると彼女からメールが届いた。
「ネットフリックスで、朝から晩まで、韓国三昧よ」
結果、BS放送を含めてニュース以外はまったく民放を見なくなったという。彼女が楽しそうにしていたので私もうれしかったが、同時に、多少なりともテレビが収入源になっている私としては感慨深いものがあった。
どこでテレビは潮目を読み違えたのだろうか。あるいは、間違えたのではなく、おおもとのプラットホーム自体が変わったので、避けられない流れなのか。
かの大手広告代理店が本社ビルを売却してスリムアップしたように、いずれにせよ大きな変化は避けられないはずだ。
役者としてできることは、ネットフリックスでも舞台の小劇場でも、どこに呼ばれても最高の「素材」になるべく精進するだけだ。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画『首都高速トライアル』で俳優デビュー。90年には『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。主な出演番組は『アウト×デラックス』(フジテレビ系)など。YouTube公式チャンネル『大鶴義丹の他力本願』も随時更新中。公開中の映画『めぐみへの誓い』で拉致の実行犯役を演じる。