東京公演に続き、ゴールデンウイークに大阪公演するはずだった舞台『Back To The Memories』が夏に延期された。東京公演ができただけでも感謝すべきかもしれない。
ザックリと暇になったが、仲間とバイクで遊ぶわけにもいかず、ゴールデンウイークは読書とネットフリックス三昧で過ごした。
普段はあまり見ない朝のワイドショーを見ると、昭和世代の耳に心地良い「世代間闘争」を商売にしている。
さも悪の巣窟とばかりに、路上飲みや休日の渋谷や原宿を映しているが、もし私がこんな時代に青春時代を過ごしていたら、褒められるような行動をとることができたかは甚だ疑問だ。
中年真っ盛りの今でこそ多少の分別があるが、二十歳そこそこの自分なら、ロクなことをしていないだろう。
皆さんも、何もしなくても「腹筋が割れていた頃」の自分を思い出してみよう。
そんな世相を映すかのように、若者たちのSNSにおける流行語で「もう終わりだよ、この国」というものがある。
コロナ禍や世界的な社会不安に覆われている現代を嘆く結び言葉のようなものだ。
また同じような使い方をされるもので、「ディストピア」がある。語源は「悪い」を意味する古代ギリシャ語と、風景を意味する古代ギリシャ語を組み合わせたもので、「暗黒郷・地獄郷」という意味だ。
そんな言葉を使わなくては自分を表現できない青春時代を、彼らは生きている。それを理解しないで、「世代間闘争」をあおったりするヤカラは、老後に大きなしっぺ返しにあうと断言する。彼らだって「恩」がなければ何もしてくれない。
ディストピアは突き進み、もう終わりだよとつぶやきたくなるニュースが飛び込んできた。
東京大や熊本大などの研究チームが、インド株などでみられるL452R変異は、日本人の6割が持つ白血球の型がつくる免疫細胞から逃れる能力があるというのだ。
研究チームは「L452R変異はアジア人の免疫から逃れるために発現したとも仮定できる」と説明した。
まるでハリウッド映画でお約束となっている人類を滅ぼす人工知能のように武器と攻め方を変更してきたということだ。
ファクターXなどといって、アジア人の死亡率の低さを喜んでいたが、ウイルスをなめてはいけない。あのミクロの世界で、人間の遺伝子実験をはるかに超えるような高度なことが行われているということだ。
まさに自然の驚異。いよいよ火星にも行くし、人間は何でもできると思っていたが、絶対におごってはいけない。
この春から、集英社の文芸誌『すばる』で小説「女優」を連載している。舞台俳優の仲間たちからは、自宅だけで完結できる仕事がうらやましいといわれることがあるが、実はそうでもない。
小説は社会や仲間と取っ組み合いをした後に、その経験や思いを「濾過(ろか)」することで原稿用紙数百枚となる。だから家にジッとしていても本当に書くことは浮かんでこない。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画『首都高速トライアル』で俳優デビュー。90年には『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。『すばる』で小説『女優』を連載中(全3回)。公開中の映画『めぐみへの誓い』で拉致の実行犯役を演じている。YouTube公式チャンネル『大鶴義丹の他力本願』も更新中。