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【大鶴義丹 それってOUTだぜ!】なくなって初めて分かる居酒屋文化の大切さ ただの「飲食店」ではない

3回目の緊急事態宣言が東京都などに発令されてから早くも1カ月が過ぎ、さらに延長されることになった。

そんなご時世ではあるが、私たち「のんべえ」にとって、居酒屋がなくなってしまった状況というのは言葉では表現できないつらさだ。

まさに「なくなって初めて分かる大切さ」とはこのことだろう。私たち「のんべえ」がどれ程までに居酒屋に依存していたことがよく分かった。

ちなみに、高級なオーセンティックバーやおしゃれなレストランではその代わりにならない。

これは「居酒屋」という日本独自の飲食文化なのだ。なじみの店で、自分好みのアルコールを多様な料理と組み合わせ、気心知れた仲間と大いに楽しむ。これは他の飲食店形態では不可能な、独自の「自由空間」だ。

言うまでもなく、私には「超常連」の渋い居酒屋がある。電話1本でお気に入りの席を取っておいてくれて、席に座ると同時に、キンキンに冷えた瓶ビール大瓶と凍った小グラスを黙っておいてくれるような店だ。

そして、私が1本目の大瓶を飲み干す寸前のタイミングで、今日のおすすめをぶっきら棒に言ってくれる。

私も言われるままだ。そして出てきた料理に悶絶(もんぜつ)する。こういう店を知ってしまうと、もうイタリアンだのフレンチなどに行く気がうせてしまう。

20代の頃、某有名な俳優の先輩に、とある有名な居酒屋に連れていってもらった。驚くほどにおいしい料理を出す店であったが、店主は若者などには決して笑顔を見せないようなタイプだった。

だが先輩の俳優はその店主と独特の信頼関係を作っていて、そんな大人同士の雰囲気に憧れたものだ。

聞くと、その店主とは、その昔、劇団で俳優仲間だったという。そんな店主のキャラクターもあり、他のお客さんたちも、ただならぬ雰囲気のオヤジばかりであった。

その店の常連になりたいと再訪したが、私の顔は分かっているはずなのに店主は素知らぬ態度であった。その後も何度か通ったが、不遜な態度に疲れて、行かなくなってしまった。俳優の夢に破れたことから、若い俳優に対して嫉妬しているのかと思った。

だが今なら分かる。彼は言葉にはしていないが、「若い俳優さんよ、うちは大人限定」と思っていたのだろう。そこに余計な悪意はない。

言うまでもなく、大人とは、二十歳以上という意味ではない。どれだけの人生をくぐり抜けてきたか否かということだ。店をそういう大人たちだけの空間にしておきたかったのだろう。高級レストランなどが、ジーンズやサンダルでの来訪を断るドレスコードと同じだ。

その時代から30年という時間が過ぎ去り、先日、その店があった場所を通ると店はすでになくなっていた。今なら、あの店主も少しは口をきいてくれるかもしれないと思ったが、残念な限りである。

そんな思いがあるように、居酒屋とは不思議なもので、ただの「飲食店」ではない。そこに多くの人間の思いや、かけがえのない時間があるはずだ。そんな日本独自の居酒屋文化がなくなってしまわないように、大人としては強く祈るだけである。

■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画『首都高速トライアル』で俳優デビュー。90年には『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。『すばる』で小説『女優』を連載中(全3回)。公開中の映画『めぐみへの誓い』で拉致の実行犯役を演じている。YouTube公式チャンネル『大鶴義丹の他力本願』も更新中。

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