子供のころから、エンジンが大好きだ。始まりはタミヤ製の電動ラジコンで、中学生の頃には小さなエンジンが付いた、Uコン飛行機というものを買ってもらった。
自分だけで初めてエンジンを始動させた瞬間は今でも覚えている。けたたましい排気音とともに、小さなマフラーから勢いよく煙が吐き出され、それが昭和の青い空に立ち上っていった。
ラジコンエンジンの排ガスは独特の香ばしさで、それが電動ラジコンとは「桁違い」の迫力であった。私がエンジン、それもガソリンを燃やす「内燃機関」にとりつかれた瞬間である。まさに「火遊び」の始まりだ。
高校になり、200ccのオフロードバイクをすぐに買った。今ではチェーンソーや芝刈り機用以外は絶滅している、煙がたくさん出る2ストエンジンというやつだ。
普通の自動車などに使われるエンジンは4ストエンジンである。2ストエンジンはシンプルな機構なのでオーバーホールや改造が容易であった。
当然のように、バイクの先輩らから教わりながら、そのエンジンを改造した。だが直線における瞬発的なパワーは上がったものの、燃費や特性が悪くなり、実際の走りには悪影響が出た。結局ノーマルに戻すこととなる。
若いころから、いろいろと懲りない性分のようで、20代前半になると、スポーツカーのエンジンを改造してアマチュアレースに参加する。
だが、同じようにパワーを上げれば、すぐに壊れるの繰り返しであった。
いよいよ、そんな昭和の火遊びも時代の波にのみ込まれる運命のようだ。コロナ禍もあり、今ひとつ本質の大きさが論議されていないが、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラルの流れは、自動車メーカーに風雲急を告げている。
欧州やアメリカの一部の州でも2035年という数字を上げて、ガソリン車の新車販売を禁止する案を示している。
新たなインフラに対する利権争いなど、水面下の“魑魅魍魎”は想像に難くないが、脱ガソリンの世界的な流れは、すでに大河の始まりとなっている。
素人目にも心配なのは、トヨタもホンダも大慌てでかじを切っているが、欧州メーカーや新たな新進気鋭の中国メーカーと比べると、スタート前から大きく出遅れている感があることだ。
よく言えば、慎重ではあるが、同時にノンビリ屋なのだ。
ガソリンから電気への急なかじ取りも、それが日本の御家芸を放棄することになり、家電やデジタルの衰退と同じ轍(てつ)を踏むという警鐘もある。まさに無間地獄。
個人における科学技術や文化芸術において、日本が世界を驚かすことも多々ある。だがコロナ対策に始まり、オリンピック狂想劇しかり、いつの間にか日本はダイナミックな対応がとても不得意な性格になったのは否めない。
ガソリンエンジンへの愛着を捨てられない、私のような昭和組に責任があるのか、ネットばかりのイマドキの連中に責任があるのか。どちらにしろ、みんなそろって痛い目にあうかもしれない。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画『首都高速トライアル』で俳優デビュー。90年には『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。YouTube公式チャンネル『大鶴義丹の他力本願』も更新中。