軍事のツボ

中国のA2/AD戦略に対抗する英空母と米海兵隊と新戦略1/2ページ

米海軍横須賀基地に入港する英空母クイーン・エリザベス(撮影・鈴木健児)
米海軍横須賀基地に入港する英空母クイーン・エリザベス(撮影・鈴木健児)
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英空母クイーン・エリザベス中心とする空母打撃群が9月4日に来日した。長期間、インド太平洋地域を中心に展開する目的の一つは、強引な海洋進出を進める中国への牽制。この地域に大規模な海軍戦力を展開していなかった英国だが、今後は関与を強めるほか、同打撃群にオランダの艦艇が加わっているように、欧州主要国も同じ方向を向き始めた。さらに、海洋進出はA2/AD戦力により支えられるが、近年拡充が顕著になっており、対抗のために米海兵隊は戦い方の基本構想(ドクトリン)の大変革を進めるなど、中国への対峙が新たな段階を迎えつつある。

 クイーン・エリザベスは9月4日、神奈川県横須賀市の米海軍横須賀基地に入港した。英海軍と米海兵隊のF-35Bを飛行甲板に搭載したまま、通常は米空母ロナルド・レーガンが使用する12号バースに接岸し、8日まで停泊。入港前後には海上自衛隊や米海軍と何度も共同演習を行った。

 英国は、欧州連合(EU)離脱後の国家戦略「グローバル・ブリテン」構想でインド太平洋地域への関与強化を掲げている。この地域も「飯のタネ」にしようという国家戦略で、多額の費用をかけて空母打撃群を派遣してきたのはこの戦略に基づく。

 障害になるのが中国の排他的、独善的、国際法無視の海洋進出。英国だけではなく他の欧州主要国にも、中国の振る舞いは経済面だけでなく「自由で平等」「法の支配」「人権」など根本的価値観に対する挑戦と受け止められるようになってきており、中国との接し方が大転換している。クイーン・エリザベス空母打撃群にはオランダのフリゲート「エファーツェン」が加わっているのをはじめ、ドイツがフリゲート「バイエルン」をインド太平洋地域に向け8月に派遣。フランスは5月に海軍の強襲揚陸艦「トネール」とフリゲート「シュルクーフ」が沖縄に寄港したほか、陸軍が5月に陸自、米海兵隊との初の3か国による日本国内での共同演習を行ったことはその表れだ。

 大転換を引き起こした最も大きな要因の一つは中国のA2/AD戦略が完成の域に達しつつあること。海洋進出を進めるうえで、敵対国の海軍戦力や航空戦力を排除したり寄せ付けなかったりすることは不可欠で、中国のそのための戦力は今や無視できないレベルに達しているとみられる。そしてこれが米軍、特に海兵隊に変革を迫っている。

 米海兵隊は従来、海軍力と空軍力で敵を圧倒している(海上優勢と航空優勢の確保)なかで敵前上陸を行うのが役割だった。しかし中国のA2/AD戦略では、主にミサイルなどの長射程火力で米空母打撃群を無力化する能力を持つことで、南シナ海や第1列島線の西側から排除し、第2列島以西で自由に行動させないことを目指すとされる。

 そのために、「グアムキラー」の異名がある中距離弾道ミサイル(IRBM)「DF-26」や対地巡航ミサイル「CJ-10」、極超音速滑空ミサイル「DF-17」などの対地攻撃兵器および、対艦弾道ミサイル(ASBM)「DF-21D」などの対艦攻撃兵器、潜水艦、無人機、偵察衛星などの開発と配備を進めてきた。

 この戦力に対応するため米海兵隊は2016年に「海兵隊作戦構想」を発表した。そのなかで遠征前方基地作戦(EABO)が提唱されている。これは敵のA2/AD脅威下で島しょ部に着上陸して複数の「遠征前方基地(EAB)」を設置し、C4ISR(指揮、統制、通信、コンピューター、情報、監視、偵察)、火力投射、兵站などの拠点とする。そのうえで敵地に対して戦力(火力)を投射して敵のA2/AD戦力を無力化し、海軍の制海・海上優勢確保を助ける。

 一言でいえば、米海軍が自由に行動できるように、海兵隊が中国軍の火力下に飛び込んで、長距離火力で逆襲して中国軍のA2/AD戦力を撃破するということ。海兵隊には相当な損害が予想できる。

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