しかし私は、まずはそのままの味を食するようにしている。たとえ味付けに不満があっても、料理の上からマヨネーズをドボドボかけるようなことはしない。
値段に関係なく、すべての料理において、何かしらの「答え」を信じて味を作った料理人がいる。例え、その「答え」が自分の趣向とは違っていても、それを変えてはいけないというマイルールだ。
だから、妻が居酒屋で唐揚げや焼き魚にお酢をかけたり、町中華で野菜炒めにお酢をかけたりすることが許せない。そんなことをしたら、料理人が、揚げ加減や焼き加減に込めたメッセージが消し飛んでしまう。いうまでもなく、自分が考え抜いて作った料理にお酢をかけるのはお断りしている。それが嫌ならば、妻自身が、「酸味」をコンセプトとした料理を作ればいい。
若い時分に、とあるベテラン監督に怒られた経験がある。ドラマの演技に少しだけ慣れが出た私は、台本に書かれたせりふの語尾を言いやすいように変えたのだ。
「セリフを自分なりに変える癖はダメ。例え二流の脚本家であっても、彼らなりに、一字一句に、心血を注いでいるせりふのはずだ」
私はそれ以来、意図的にセリフの語尾などを変えることはやめた。もしかすると、変えたほうがいい結果になることもあるだろう。だが、結果よりも大事なこともあるような気がしたからだ。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画『首都高速トライアル』で俳優デビュー。90年には『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。YouTube公式チャンネル『大鶴義丹の他力本願』も更新中。
