ミュージシャンや文化人、ビジネスの専門家といったパーソナリティーが、スマートフォンで“声のブログ”を配信する新しい音声サービスが急成長している。グーグルやアマゾンなど「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業も相次いで参入している「音声」にはどんな可能性があるのか。日本のトップランナーの声を聞いてみた。 (中田達也)
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--Voicy(ボイシー)はどのようなサービスを提供していますか
「ボイスメディアというジャンルのコンテンツを用意している音声プラットフォームです」
--いろいろな分野の人が発信していますね
「パーソナリティーは約800人います。誰でも発信できるというわけではなく、1カ月に1000人ぐらい応募がありますが、通過するのは3~5%ぐらいですね」
--どんな人が選ばれるのですか
「実はしゃべり方では審査しておらず、その人の話を聞きたいかどうかが基準です。たとえばその人が飲み会に参加したり、講演会を開くとなったら何人が聞きにくるかということですね」
--音声コンテンツの長さが10分程度となっている理由は
「発信者が十分に話せて受信者が聞きやすい時間ということですね。忙しい世の中で、倍速でも聞きやすい設定にして、スキマ時間にさっと聞くことに最適化しています」
--いかに簡単に発信できるかに注力していますね
「ラジオやポッドキャストは音声を収録して編集したりBGMを付けたりする必要がありますが、ボイシーはスマートフォン1つで収録も発信もできるのが特徴です。発信コストを最大級に下げたら、普段忙しい人でも発信できるようになると考えました」
--一発録りして編集もしないそうですね
「声のコンテンツは“一番搾り”が感情が乗るので一番いいんですよ。声は情報共有ツールである一方、人の感情や心の揺れを届けるものなので、技術が進歩しても人の声との差は残ると思います」
--収益モデルは
「基本的には全部無料のサービスですが、限定放送を有料で聞ける仕組みがあるほか、人気のパーソナリティーには企業がスポンサーにつくこともあります。多い人は月に200万円以上稼いでいて、音声で稼いでいるプレーヤーを並べたら、ラジオのパーソナリティーを含めても上位はボイシーの人じゃないかという感じですね」
--ボイシー側の収入は
「リスナーからパーソナリティーへの支払いの一部を手数料としていただいたり、スポンサーから一部もらったりします。また、自分たちで音声番組を作りたい、社内報に使いたいという企業も増えていて、システムの利用料収入もあります」
--新しい機能も
「遠くにいる人たち同士で一緒に収録できるようになりました。また、夜の8時から12時の時間帯にみんな集まろうという生放送の機能も始めています」
--GAFAも音声の分野に参入しているそうですね
「音声サービスは米国や中国では非常に伸びていて、GAFAはそれぞれ自分たちのプラットフォームで流通させようとしています。声には活字の何倍も情報量があるし、健康や生活の情報も分かります。データを集めるだけ集めて、利用法は後で考えるというのが市場作りの根幹です」
--新規株式公開(IPO)は
「準備を進めています」
--音声サービスが発達すると、スマホの画面を見続ける生活スタイルも変わってきますか
「数年後には『昔は10センチ四方の箱を持ってずっとうつむいていたね』と言われるようになるかもしれませんね」
--今後の展望は
「音声は五感の一つを丸取りできるので、とても範囲が広い仕事です。いろんな世界を変えていき、ボイシーランドのような遊園地が作れたら面白いですね」
【会計士】 大学では基礎工学部で物理を専攻した後、経済学部で学び、公認会計士の資格を取った。「いろんな会社の内情を見たり訪問できたら好奇心が満たされると考えました」
【世界】 29歳から2年かけて世界をほぼ2周する。「このまま会計士でいいのかと思ったのがきっかけです。完成品が見えている仕事より、見えてない仕事の方が面白いんじゃないかと」
約30カ国を訪ねるなかで、NPO(非営利団体)を設立したり、オーケストラの運営に携わったりした。「日本人コミュニティーに顔を出していたら知り合いになりました。巻き込まれたらイヤとは言えないので」
【起業】 帰国後はベンチャー企業の支援に携わっていたが、「自己承認欲求のために起業している人もたくさんいるし、お金持ちになりたい人やグレーゾーンでいいから稼ぐという人もいました。どうせやるなら日本が良くなったり、人々の生活を変えるような事業を見せつけたいと思うようになりました」。
音声ビジネスを始めたときはスマートスピーカーもワイヤレスイヤホンも普及していなかった。
「音声をやるなんてバカじゃないのと言われましたが、確信はありました。ネット上に尊敬する経営者や先輩の声はほとんど残っていなかったので、これが残ると絶対に価値があると思いました」と振り返る。
【アナウンス】 子供のころから、大阪の毎日放送(MBS)のアナウンサーだった父親に話し方を厳しく指導されていたという。
音声のビジネスを始める際にはアナウンス学校にも通った。「話し方がきれいな人が話が面白いわけではないという学びがありました」
【共同創業者】共同創業者でエンジニアの窪田雄司氏との二人三脚でビジネスを育ててきた。「チームにエンジニアがいないと起業は難しいのが実情です。ハードワークでやってくれたし、何でもやってみましょうと積極的で、そういうメンバーがいてよかったなと思います」
【スポーツ】 小中学校ではサッカー、大学時代はテニス。「いまは週2回はパーソナルジムに行くようにしています」
【読書】 「昔は星新一ですね。社会の“たられば”を考えている人だと思います。あとは本田健さんの『きっと、よくなる!』ですね」
【座右の銘】 《道に迷ったらオモロい方へ》「30歳ぐらいから使っています。人が喜んでくれることが自分の価値だと考えています」
【会社メモ】音声プラットフォーム「Voicy」の開発・運営などを手掛ける。本社・東京。2016年2月設立。売上高は非公開。10月27日から人気パーソナリティが出演する声の祭典「Voicy FES’21」を開催する。
■緒方憲太郎(おがた・けんたろう) 1980年8月生まれ、41歳。兵庫県芦屋市出身。大阪大基礎工学部卒業後、大阪大経済学部を卒業し、公認会計士資格取得。2006年新日本監査法人入社。29歳で休職し、世界を回る。その後、アーンスト・アンド・ヤング、トーマツベンチャーサポートを経て16年、Voicyを創業する。