最近ハマっている番組がある。
ひと仕事終えて帰ってくると、まず、その番組を見ないと気が済まない。先日も夜9時に帰宅して、ギンギンに冷えたビールの大瓶をのみながら、テレビのリモコンを片手にその番組の最新回をチェックした。気がつくとほろ酔い加減で、1時間以上も過ぎていた。
その番組とは、大阪にある外車整備工場の社長さんが作っているYouTubeチャンネルだ。この社長の、人を食った関西トークがとにかく面白い。
番組内容は、「今日はメルセデスの客から、ぼったくってやった」などと冗談じみたトークで始まる。
だが、それは彼特有の悪者ぶった演出で、実際は大手ディーラーでも直せないような難しい修理を請け負うような、かなり高い技術を持つショップなのだ。
値段の面でも大手ディーラーなどよりも実直な予算で仕事をしている。
また工場に日々新たに持ち込まれる高級外車のメカニカルな解説は、自動車雑誌などでは踏み込めないコアなものばかりで、専門的にも見応え十分である。
実際の現場では、どの車種にどんな故障が多いかということや、修理費などもすべてオープンに話している。
妻は、そのチャンネルの何が面白いか分からないと冷笑するのだが、一般の自動車雑誌などでは我慢できない、私のようなマニアにはドストライクな味付けだ。
その手のマニア系YouTube番組では、高級すしばかりを自費で取材しているグルメ系や、元任侠系のユーチューバーのリアルなアングラ系などがお気に入りだ。
その手の番組、平均再生は大抵数万回程度なのだが、マニア向けになってしまうとそのくらいの数値になるのは仕方がない。
メジャーなYouTubeチャンネルでは、何百万回再生というモノもあるが、マニアまでもがうなる内容ではない。
しかし、メディアの形がここまで多様化するとは、20年前の私もまったく想像ができなかった。
10年前くらいからザワザワとし始め、5年前で慌てたという感じだ。
また少し前までは、この手のマニアックなYouTube番組を、テレビ局も、自分たちの「商売敵」とは見ていなかったのだ。
ネットに強い関係者が警鐘を鳴らしてはいたが、多くの関係者は、素人が作った番組など話にならないと笑い飛ばしていた。
だが撮影機材と編集機器の、急速な進化と低価格化が状況を一変させた。プロアマ関係なく、センスさえあれば、テレビ局でなくとも面白い番組を作れる時代になってしまった。
また1日は24時間しかなく、大人がテレビに向かう時間というのも限られている。
実際に私のケースでいうと、その限られた「パイ」を、民放・秋の新番組は、大阪の整備工場の社長に大きく食われてしまったのだ。
秋の新番組がNetflixの韓流連に食われてしまうのなら理解できるが、大阪の外車整備工場の社長さんが敵になるとは、10年前の誰が予見できただろう。
そして、今から10年後はもっと変わっているはずだ。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画『首都高速トライアル』で俳優デビュー。90年には『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。YouTube公式チャンネル『大鶴義丹の他力本願』も更新中。