仲間のバイク屋オーナーが、オートバイの業者オークションの落札データをこっそりと見せてくれた。これは中古バイクの仕入れ値段がそのまま分かってしまうものなので、一般的には表に出ていない。
トップ落札の欄を見てみろという。見ると、およそ中古オートバイの値段らしからぬ、数百万円という数字がいくつも並んでいた。
しかしその車種は、高価なイメージがあるアメリカの「ハーレー・ダビッドソン」やイタリアの「ドゥカティ」ではない。日本製の1970年代から80年代前半のスポーツ系オートバイなのだ。それも当時の新車価格としては50万円もしなかったような車体が、極上な場合では10倍以上で取引されているケースも少なくない。
4輪でも少し前から騒がれているが、実はオートバイにおいても、80年前後の日本製オートバイが世界的に「異様」な高騰をしている。
世界中、みんな考えることは同じらしく、私から上くらいの中年男子たちが、若い時分に乗っていたオートバイに再び乗りたくなり「オトナ買い」をしているのだ。
そのブームに気がついた業者による投機目的の買い占めと、コロナおこもり需要(?)が刺激して、さらなる高騰が進んでいるのだ。こんな現象は84年に私が免許を取得して以来一度もない。
私自身も、30年以上前の旧車オフロードバイクを、自分の手で“レストア”しては、YouTube動画でシリーズ化している。その手の世界の正常なあり方というのは理解しているつもりだ。
高騰する前は「二束三文」で取引されていた車種も多々あり、それをリアルに知っている側としては不思議な気持ちになる。
クラシック・フェラーリの投機的高騰ならいざ知らず、その手の古い日本製オートバイは適度な予算で楽しめるジャンルであるべきだ。そうでなければいずれはブームが去り、ジャンルとしても荒廃するだろう。しかし世界的なブームでもあるので、何をしても遅きに失した感だ。
中年男性を中心として、旧車やそのレストアに熱を上げる理由とは何だろう。
私の場合、青春時代に乗っていた古いオートバイをレストアしている理由は「あの頃はよかった」的な物悲しい「懐古趣味」ではない。確かに三十数年という時間を振り返る作業ではあるが、古いものを懐かしむというよりは、古いものでも手をかけると新しくなるという「復活」の喜びを楽しんでいるのだ。
機械工作が好きという大前提が必要ではあるが、自分の知識と手間で、廃品寸前だったものが昔の輝きを取り戻す瞬間がたまらない。変えることができない時間の流れに、少しだけあらがうことができたような気分にもなる。
だが、そんなへ理屈を並べても、やはり若者からしたらそれも「懐古趣味」かもしれない。
若いとき、お金持ちの老紳士から73年式のポルシェを見せてもらったことがある。最新のポルシェしか興味のない私には、どこかピンとこなかった。小さくてきゃしゃで、カッコよくは思えなかった。
しかし今ならその古いポルシェをツマミに、ワイン2本はいけるだろう。
やはり人は変わるものだ。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画『首都高速トライアル』で俳優デビュー。90年には『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。YouTube公式チャンネル『大鶴義丹の他力本願』も更新中。