寄せ場に入る際、所長のような人間に履歴書のような紙切れを渡され記入するよう命じられたのだが、住所はでっちあげ、そして本名すら書いていない。なぜなら、所長が私を気遣うようにこう言ってきたからである。
「みんなそれぞれワケがあってここに来とるんやから、兄ちゃんも適当に名前変えて書いておけばええからな」
その後、2週間ほどこの寄せ場に滞在したが、途中でやけに「佐藤」や「鈴木」といった名字が多いことに気が付いた。実際のところ私が一緒に働いた男たちは、元ヤクザ、元シャブ中、現シャブ中、殺人や強盗などで刑期を終えた者、といった顔ぶれが非常に多かったのである。そんな男たちと私が向かったのは、兵庫県尼崎市にある「塚口さんさんタウン」。今は彼らのおかげで更地になり、立派なタワーマンションが建設されている。
■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県出身。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動。著書に、大阪市西成区あいりん地区への潜入を記録した『ルポ西成七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)がある。