実況・小野塚康之 時代を超える名調子

縦断高校野球列島(34)~岡山県~ 県勢初の夏決勝、岡山理大付に全力の感涙 馬場が流血&激痛に耐えサヨナラ打1/1ページ

1999年の岡山理大付属は県勢初の夏甲子園決勝進出を果たした。全ての力を出し切った夏だった。

前年センバツを経験した野手が中心にいた。1番ショート大北裕人、3番レフト西川清二、4番キャッチャー森田和也、6番主将でセカンド森北真悟。

センターラインが頼もしい。要の森田は178センチ105キロ。風貌が1979年夏準優勝の大阪・浪商の香川伸行(元・南海など)を彷彿させ、〝ドカベン〟のニックネームも引き継いだ。プロテクターが小さく見える。打撃も柔らかく飛ばす。

キャプテン森北はハッキリ物申すタイプだった。エースは右のオーバーハンドの早藤祐介。武器は鋭い腕の振りから繰り出す威力ある速球、気迫をまき散らしながらの超力投型だ。県大会では腰痛を抱えながら登板した。個性の強い選手が多いのは魅力だった。

初戦は福島の学法石川、大接戦の末サヨナラ勝ち。19年ぶり2回目で夏の甲子園初勝利をつかんだ。3回戦は春の準優勝校水戸商業に6―0、早藤がこの夏初完封、森田は右のアンダーハンドのエース三橋孝裕から本塁打を放った。準々決勝の滝川二戦は大ピンチと地元の大応援団にもひるむことなく度胸良く5―2と快勝した。早川宣広監督は『試合経験に恵まれピンチにも動じないチーム』だと自信を持っていた。

迎えた準決勝。智弁和歌山は2年前に全国制覇、1年でベンチ入りした主将で4番サードの佐々木勇喜、3番キャッチャーの福地亮介、8番遊撃手の川崎絢平(現・明豊監督)がいて、1番ライトの久米圭吾や6番ファーストの1年武内晋一(元・ヤクルト)らが加わり戦力は充実していた。

でも看板にビビらないのが岡山理大付属だ。炎のエース早藤が1回久米にヒットを許すが、続く送りバントを素早くさばいて二塁経由の併殺に取ってしのいだ。

その裏〝吉備のドカベン〟森田のバットから快音が響く。右の井上和久の外側の速球をジャストミート、打球は〝浜風〟の強い逆風の右中間にすっ飛んでいく。あっという間にワンバウンドでフェンスに達する二塁打で先制1―0。強烈な長打を生んだスイングは柔らかく見ほれた。

好スタートを切ったが、3回表に智弁歌山の逆襲を受けた。川崎への死球からバント、久米のタイムリーで同点とされ、一死一塁からまたバントで二死二塁。さらに盗塁で三塁に進められた後、福地のヒットで1―2と逆転された。鮮やかかつ威圧感のある攻撃だ。さらに5回には無死一塁で久米が早藤の高めの速球を振り抜き左中間にアーチを描く。1―4とリードを広げられた。

しかしへこたれない。6回には脇役たち、8番ライトの葛城知彦、2番センターの松下隆信にタイムリーが出て3―4と詰め寄る。この後は早藤が踏ん張る。もともと腰に不安を抱えている上に水戸商業戦では左の太ももを痛めていたがマウンドを守り続け、この試合は連投だった。

1点差で進んだ8回にまた岡山理大付属にアクシデントが起きる。一塁の守備で走者と交錯した馬場雅央が左足をスパイクされ、歯が甲に刺さって流血、激痛が襲った。出場を続けるが足を引きずりまともには走れない。8回裏の打席では全く力のないスイングで一塁邪飛に倒れた。いくら元気なチームといえ苦しい状況になりつつあると感じた。

■一振りにかけた!!

1点差のまま9回の裏、岡山理大付属の攻撃。早川監督は勝負を賭けて、先頭の9番早藤に田岡宣信を代打に送った。あえなく投ゴロに倒れ、一死無走者となったが、ここから想像の付かない逆転劇が始まる。トップに返り大北は、引っかけ気味の三塁ゴロでアウト確実と思われたが、佐々木の送球が乱れ、一死一塁、同点の走者が出た。

続く2安打と当たっている松下。打球はショートの右へのゴロで、抜群の守備力を誇る川崎のグラブの下を抜けてセンター前ヒット! さあ一死一、二塁。逆転の走者を置いて打順は3番西川へ。さらにネクストバッターズサークルで主砲森田が出番を待つ。

左打席に積極的な西川。井上が投げ込む。西川が引っ張る。ゴロが一塁の正面、ダブルプレーコース! 二塁へ送球してツーアウト! 一塁へリターン! 西川が駆け込む! 間一髪セーフ! ドッという歓声が漏れる。

森田まで回った。二死一塁三塁、大拍手に送られて打席へ。この後5番は馬場だ。森田は、二塁打2本1打点。さあどうする? 初球から警戒色が強い。福地のミットはボールのゾーンだ。2球目もボール。そして3球目、一塁走者西川スタート! 盗塁成功! 投球ボールでスリーボール、二死二塁三塁。一塁が空いた。この盗塁は予想外だった。この後は足に負傷の馬場。これで森田勝負を避けた。福地が一塁を指さし敬遠で二死満塁。

マウンドにここまで146球の智弁和歌山井上、打席に歯を食いしばり痛みに耐える馬場、けがの後の凡打に対し激痛とは知らない主将の森北に『打てないなら代われや!』と言われ燃えていた。

初球はボール。振れるか? 次はストライクを取りに来る。目を細めて見つめる。2球目外角速球、うわーっ! 振り切った! 完璧だ! 打った瞬間期待が膨らむ。一振りに懸けた力強いライナーが左中間を割った。5対4逆転サヨナラ勝ちだ!

馬場が引きずる足で一塁を回り勝利を確認して崩れ落ちた。泣いた。ぐちゃぐちゃに泣いた。逆転勝利の興奮の涙が他の選手たちにも広がった。ものすごい気力とエネルギーで勝ち取った決勝進出。真の全力の戦いを眼前にして私はこぶしを握りしめた。 =次回は広島県

【1999年夏の岡山理大付の戦績】

2回戦5―4学法石川(サヨナラ)

3回戦6―0水戸商業

準々決5―2滝川二

準決勝5―4智弁和歌山

(逆転サヨナラ)

決 勝1―14桐生第一

zakスペシャル

ランキング

  1. トンガ沖噴火“世界的寒冷化で食料危機”へ 大気中の粉塵で太陽光遮断、農業や畜産業に打撃 「脱炭素社会」実現も困難か

  2. 【マンション業界の秘密】タワマンから戸建てへ…流れは変わるか テレワークでの不都合管理費・修繕積立金の値上げ

  3. 【芸能ニュース舞台裏】伊集院光、ラジオ終了も…上層部との戦争避けるクレバーな不満のにおわせ方

  4. 日米首脳の対面会談はいつに!? オミクロン株で言い訳できない「林外相の親中派の疑念払拭せよ」青山繁晴氏が岸田政権に諫言

  5. 合同自主トレの柳田、清宮ら6選手集団感染、それでもキャンプ開催するのか 「最悪の事態も想定しなければ…」プロ野球関係者は戦々恐々

  6. 米国、カナダも警戒 北京五輪の個人携帯持ち込み…日本はどうする!?

  7. 「私も寝不足」発言で火に油 緊急速報の誤配信、神奈川の黒岩知事が釈明も…深夜に大音量で20回通知

  8. 【エンタなう】愛妻を寝取られながら、見て見ぬフリをする男の心の内は… ゴールデン・グローブ賞受賞で再注目、映画「ドライブ・マイ・カー」

  9. 【麺喰いにつき】餡たっぷりワンタンメンと〝二郎風〟醤油ラーメン 新店&復活話題の2軒!

  10. 大統領選で誰が勝っても…韓国経済は「日本を追い抜く」どころか政治主導で長期混乱期に突入へ 〝韓数字〟予測に大はしゃぎする左派系学者・ジャーナリストたち