定年後 難民にならない生き方

多重介護正面から向き合い共倒れ回避1/1ページ

誰もが直面する介護
誰もが直面する介護

高齢者の介護を高齢者が行う「老老介護」に加えて複数の家族を介護する「多重介護」、育児と介護が重なる「ダブルケア」が社会全体の課題として注目されつつある。少子高齢化を背景に〈自分の親と配偶者の親〉〈親と独身のおじ・おば〉など複数人の介護が重なり合う状況は今後ますます増えるのは想像に難くない。

「年齢の割にはまだまだ元気」と思っていた親たちがドミノ倒しのように調子を崩し、一気に介護生活に突入することも珍しくない。定年世代にとって、多重介護は決して対岸の火事ではない。しかも、50~60代は自分たちが健康面での不安や体力的な限界に直面する年齢でもある。どうすれば共倒れすることなく、親の介護を乗り切れるのか。

認知症のある母親(要介護1)の遠距離介護をする中、近くに住む義父(要介護3)の介護も本格的にスタートしたという、ゆずさん(音声配信「いきなり介護」主宰)に聞いた。

「私としては母にも、義父にも、自分たちが思い描く老後を過ごしてほしいと考えていました。『最期まで家で暮らしたい』と言うなら、全力で応援したいとも思っています。でも、私ひとりでやれることには限界があります。義父の介護が始まった時点では、すでに母の遠距離介護がスタートしていたのでなおさらです。私が置かれている立場や事情を包み隠さず打ち明け、義父に『これからどうしたい?』と尋ねました」

実はゆずさんは、母親の遠距離介護が始まったときにも同様のやりとりをしていた。認知症だと分かった当時、母親が暮らす部屋は荒れ果て、「このままでは2、3カ月もしないうちに施設に入らざるを得なくなるだろうと思っていた」と当時を振り返る。だが、母親の希望は「これまで通り、自宅で暮らし続けたい」だった。ゆずさんは母親と話し合い、実家の断捨離に踏み切った。

古い家具などをスムーズに処分するための方法を調べたり、新たな家電・家具をインターネット通販で買い揃えたりしたのはゆずさんだが、「どれを捨てるか」を決めるのは母親の役割。「最期まで自宅で暮らせるよう頑張ろう」を合言葉に、親子で励まし合い、部屋は見違えるほど片付いた。そして、小規模多機能型居宅介護(1つの事業所が通い・訪問・宿泊の3つのサービスを提供し、月額定額制で利用できる介護保険サービス)を導入し、介護体制を整えた。

一方、義父の気持ちは施設入所と在宅継続で揺れていた。だが、「〝家族に迷惑をかけたくない〟とか、そういうことではなく、お義父さんの本音は?」と再度尋ねられ、出てきた答えは「自宅で暮らし続けたい」だったという。

「だったら、自宅で暮らせるよう頑張ろう。でも、最期まで自宅で暮らすってきれいごとじゃないよ。私も本気出すから、お父さんも本気出してね、と伝えたんです」

腹を割って話し合い、義父とも目標を共有できた。認知症がありながらも、いきいきと一人暮らしを続ける母親の暮らしぶりが、義父の励みにもなっているという。

親の人生は親のものであり、子供の人生は子供のものである。親の性格にもよるところはあるとしても、率直に正面から向き合うことが共倒れの回避策になりうることは頭の片隅に置いておきたい。 (水曜日掲載)

■島影真奈美(しまかげ・まなみ) ライター/老年学研究者。1973年宮城県生まれ。シニアカルチャー、ビジネス、マネーなどの分野を中心に取材・執筆を行う傍ら、桜美林大学大学院老年学研究科に在籍。近著に『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)、『親の介護がツラクなる前に知っておきたいこと』(WAVE出版)。

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