コロナ禍も多少落ち着いてきた秋晴れの日曜日。友人夫婦が、新車購入の見積もりのため、某国産自動車メーカーのディーラーに向かった。
彼らが欲しかったのは人気SUVで、値段帯としては300万円ほどである。しかしその帰り道、2人の表情は一転、どんよりとした曇り空のようだった。
その夜、私はその夫と駅前の居酒屋に行った。ビールでのどを潤した後、開口一番に彼がいったのは…。
「最低でも半年待ち、それ以上の可能性もあるといわれて、バカバカしくなって帰ってきたよ」
ディーラーマンいわく、本来は1カ月から2カ月だった納期が、これほどに長くなった理由は、コロナ禍による半導体不足から、海外を含めて電子パーツが足りないためだという。
たったひとつの小さなパーツが足りないだけで、工場では車が組み立てられないそうだ。それを見込んでメーカーが減産しているのだ。
その某自動車メーカーの減産が、「下請け部品メーカー」に打撃を与えているという報道を思い出した。
また、そのディーラーマン自身も、納期の遅延で顧客が多いにもかかわらず、販売実績が伸びずに困っているという。
客の物欲がわき立っているというのに、どうしてか誰も得をしていない状況のようだ。
私はモデルチェンジのサイクルが早い国産車は、長期の納期期間を我慢してまで買うものではないと思っている。
10カ月後、納車された途端にマイナーチェンジや特別モデルが発売されるのがオチだ。また新車としての価値が目減りする時間を取られているような気がする。
私は、彼に程度の良い中古車を探してみてはといった。
「確かに、高級外車でもないのに半年待ちはあり得ないね…」
彼はそういって笑っていた。だが1週間後、彼から怒りのメールが送られてきたのだ。
大手中古車店に行ったところ、人気車種は数年落ちでも値段設定が高く、数キロしか走っていないような新古車に至っては新車より高い値段だったという。バカバカしくなって買う気がうせたとお怒りなのだ。
この状況には私も言葉を失った。需要と供給で値段が変わるのは自由主義経済の基本だが、プレミアムクラシックカーでもない現行中古車が新車よりも高い値段になるというのは、明らかに便乗値上げの「ボッタクリ」である。
それを物欲任せで買うのは個人の自由だが、本来の価値を逸脱した値段で買っても、後々損をするのは分かり切ったこと。バブル崩壊を忘れたのだろうか。
コロナ禍がもたらした「物欲」などがいつまでも続くわけがないと思うのだが、こんな状況の勢いは衰えないという。
プレジャーボートやバイクなど、趣味性の強い乗り物においても、同様に異常な高騰が起きているらしく、実際に一部の業者は空前の好景気だという。
バカバカしい限りだが、こうなるとコロナバブルといわざるを得ない。
台風のときに増水を見に行ったりするとロクなことがないのと同じで、こういうときは余計なことをしないでジっとしているのが一番だ。
だが、川が増水していると誰かが騒ぐと、自分も見に行きたくなるのも人情なのだが…。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画『首都高速トライアル』で俳優デビュー。90年には『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。YouTube公式チャンネル『大鶴義丹の他力本願』も更新中。