二つの世界が切り替わる長いトンネルは、群馬県と新潟県の間にあるJR上越線の清水トンネル。島村が訪ねる温泉町は、スキーリゾートとしても知られる越後湯沢温泉だ。川端は、町の旅館に滞在して小説を執筆したという。
越後湯沢駅から歩いて5分ほどのところに歴史民俗資料館があって、駒子のモデルと言われる芸者が住んでいた部屋を移築したコーナーが設けられている。そこに「国境」は「こっきょう」なのか「くにざかい」なのか、という解説文があって、ハッとさせられた。国文学の研究者は、小説には「国境の山々」という言葉が多出して、これは「くにざかい」と読むのが自然。ならば冒頭もそう読んではどうかと指摘する。たしかに。
近くの公園に、川端の直筆を刻んだ文学碑があるというので訪ねてみた。ところが雪が積もっていて近づけない。遠目にそれらしき物体が見える。雪かきをしている人に聞いてみたら「地元じゃないので」と返事が。雪かきではなく、雪に埋もれた車を掘り出しているところだった。横浜ナンバー。どういう状況だったのか…。『雪国』にも〈地吹雪が一晩中荒れるときに、あんた一度、来てごらんなさい〉というセリフがあるが、雪国の冬はやはり油断ならないようだ。 (阿蘇望)
■湯沢町歴史民俗資料館・雪国館 新潟県湯沢町湯沢354の1