サザンオールスターズの『My Foreplay Music』を聞いたのは高校生のときだった。歌詞に登場するベーゼとは聞き慣れないことばだが、「キス(プラスα)ぐらいの意味だろう。何やら古臭い印象だが、それにしてもエロい感じがするなあ」なんて、受験勉強しながら考えていたのをかすかに思い出す。
ベーゼとは接吻を意味するフランス語である。日本には「アメリカ文化の激流」前にフランスかぶれの時代もあったわけで(とくに恋愛関係)、この「ベーゼ」は「ジュテーム」などと並んで、はるか昔の諸先輩方の「おとなの教養」としてのことばであった。
この年の主な事件は、「中国残留日本人孤児47人初の正式来日」「臨時行政調査会(土光敏夫会長)発足」「神戸ポートピア開幕」「マザー・テレサ来日」「ポーランド自主労組『連帯』のワレサ議長来日」「東京・深川で通り魔殺人事件発生」「三和銀行茨木支店の女子行員、オンラインで1億3000万円詐取」「厚生省が丸山ワクチンを治験薬に指定」「北炭夕張新炭鉱ガス突出事故、93人死亡」「福井謙一、ノーベル化学賞受賞」「沖縄本島で『ヤンバルクイナ』を発見」など。
黒柳徹子の『窓ぎわのトットちゃん』がベストセラー。洋画は『エレファント・マン』、テレビドラマは『北の国から』が人気となった。
それにしても、桑田佳祐は「ベーゼ」だの「いなせ」だの「すべからく」だの、昔風のことばを突然ブッコミ、若い衆をドギマギさせるのがうまい。ちょっと昔の「ことばの果実」に実に敏感なのだ。(中丸謙一朗)
〈昭和56(1981)年の流行歌〉 「ルビーの指環」(寺尾聰)「チェリーブラッサム」(松田聖子)「奥飛騨慕情」(竜鉄也)