注目人物のフィーチャーストーリーは常にメディアの王道コンテンツ。今なら、ITを駆使して新たなマーケットを開拓する起業家や、クラウドファンディングで出資を募り社会問題解決型のNPO法人を立ち上げる若者などが取り上げられがちだろう。
立花隆の「青春漂流」は1983年から84年にかけ雑誌「スコラ」に連載した人物評伝。未来を見据え奮闘する若者たちを取材するが、その中に組織人は一人もいない。
自らの腕で世を渡る職人やコックなどが多く登場する。昨今と異なる傾向。その後「コート・ドール」シェフとして名をはせる斎須政雄や、十数年後にソムリエ世界コンクールで優勝する田崎真也にも取材している。両名ともまだ殆(ほとん)どメディアに出ることがなく無名だった頃だ。
今風のその手のストーリーでは、時代の求めるヒーロー像への共感をあおり、読者や視聴者のカタルシスに奉仕する作りが常道。人生の途上で師や周囲とぶつかっても、やがてその対立は止揚・解決し、主人公は一層成長して成功に至る。しかし「青春漂流」の登場人物たちのふるまいは、現代の主人公のスマートさとは明らかに異なる。