なぜ「捨てない」のか? 大切なモノは「記憶」や「歴史」、そして「人生」と結びついているからだ。ふと孤独感に襲われたとき、こうした〝ガラクタ〟が家族や味方になって癒やしてくれる。単に年表で人生を振り返るのではなく、モノを依代にすれば、より豊かな気持ちになれる。新型コロナ禍で人の絆が断ち切られている現在ならなおさら大切だ。
「不要不急」の中にこそ大事なものが…
「『捨てる』という行為はやがてヒトに波及してゆく。特に高齢者は断捨離される立場です。生産人口でなくなったヒトは軽んじられる傾向がある。コロナ患者も同じ。感染者が増えて医療施設が逼迫してくると、医師に決めさせるのは酷だから、と重症度で機械的に判断され、選別されてしまう。『コスト』面だけでヒトを選別するのは残念なこと。一見、何の役にも立たなそうな『不要不急』の中にこそ大事なものがあるのです」
五木さんは「仕事」も捨てない。人気作家になるまでは食べられない時代が続き、ありとあらゆる仕事に就いた。業界紙の記者やルポライター、レコード会社で童謡を書いたり、CMソングなら何百曲も。ラジオ番組の構成作家もやった。
驚くのは大作家になった今も、そうした仕事を続けていることだ。
「ラジオの仕事はもう60年も続けている。本の帯や文庫本の解説文も全部、僕の『仕事』。それを、捨てないでずっと一緒にやっていきたい、というのが僕の生き方です。『捨てなさい』って声には強迫観念を感じませんか」
浄土真宗の開祖である親鸞を敬愛し、小説やエッセーで何度も書いてきた。