松野博一官房長官も、何とも地味な人事だったが、狙い通りの役割を果たしている。このところ、官房長官が副総理格になってしまって、記者会見での応対が政治問題化することも多かった。
本来、官房長官は縁の下の力持ちで、丁寧に対応して失言しないことが基本だから、安心してみていられる。松野氏は松下政経塾出身のため、野党に多い同窓生の間でも評判がいいから、安倍、菅両内閣の野党との対決路線より憲法改正などにはいいかもしれない。かつて、「名官房長官」といわれた大平正芳氏とか、木村俊夫氏といった系譜につながることを期待したい。
岸田首相は、父親が通産官僚(現経産官僚)で、親族には財務官僚も多いから優秀な官僚を使いこなすのも得意だ。スタッフを上手に使い、世論や党内の不満が出ると微修正を自らの主導権で図る。
だが、物足りないのは、安倍、菅内閣のような、やんちゃな迫力がないことだ。そのなかで、私が「世論に寄り添い過ぎて大失政に近い」と危惧するのがコロナ対策だが、それは次回取り上げたい。
■八幡和郎(やわた・かずお) 1951年、滋賀県生まれ。東大法学部卒業後、通産省入省。フランス国立行政学院(ENA)留学。大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任し、退官。作家、評論家として新聞やテレビで活躍。徳島文理大学教授。著書に『365日でわかる日本史 時代・地域・文化、3つの視点で「読む年表」』(清談社)、『日本人のための日中韓興亡史』(さくら舎)、『日本の総理大臣大全 伊藤博文から岸田文雄まで101代で学ぶ近現代史』(プレジデント社)