関西とは、どのエリアを指すのでしょう。大阪・京都・兵庫・滋賀・奈良・和歌山の2府4県は定番ですが、府県域を超えた行政機関「関西広域連合」では鳥取と徳島を加えた2府6県を関西と定義しています。
だったらこのコラムでも…というワケで今回は徳島県とっておきの話題をお届けします。しかも県南東部の阿佐海岸鉄道で昨年末にデビューした世界初の乗り物DMV(デュアル モード ビークル)の導入秘話! 電車とバス双方の機能をもったスーパーカーで、ある時は電車に、またある時はバスになって、アクセス不便な地域にも私たちをラクラク運んでくれます。それだけにDMVは開発当初から国内外で注目され、日本でも全国各地で試運転が繰り返されてきました。しかし実用化に踏み切ったのは阿佐海岸鉄道だけで、これが世界初というから驚きです。
ただ同鉄道は高齢化も著しい過疎地を走る第三セクター。世界が注目するスーパーカーを真っ先に導入するといったアグレッシブなイメージはありません。ではなぜDMVを走らせることができたのでしょうか。取材すると、コロナ禍で疲れた心に響く、温かいメッセージが聞こえてきました。
DMV開発の歴史は長く、半世紀前の1962年に当時の国鉄が赤字ローカル線活性化の切り札として「アンヒビアン・バス(両生類)」という名で着手したのが始まりです。鉄道にもなるバスこそ、過疎地の救世主と考えられました。その後、JR北海道で本格的な開発が行われ、何度も実証実験や試運行が繰り返されました。
そして2008年7月に開催された「洞爺湖サミット」では、洞爺湖ビジターセンターの駐車場で国内外の報道機関に向けてDMV走行デモンストレーションを実施。続いて一般向けの試乗会などさまざまな試みが行われました。しかし実用化するためには多額の費用や事業者確保など多くの問題が課題となり18年、ついに断念されてしまいました。
そこに名乗りを上げたのが阿佐海岸鉄道です。どの鉄道も解決できなかったDMV走行条件を、同鉄道の阿佐東線がクリアしたからです。その条件とは、路線を「DMV専用線区」にすることや単車運行にすること、駅のプラットホームに乗り入れ可能にすることなど、素人でも「無理でしょ」と思うものばかり。しかし阿佐東線はJR牟岐線の終点を始点に、地域の足として運行している全長8・5キロメートルの短い路線。だからこそこの難条件をクリアできたのです。
言い換えれば、深刻な過疎化と高齢化、さらには27年間も赤字続きという苦難に耐えながら「地域の足を無くしてはならない」という使命感で運行を続けたからこそ、世界初のDMVを導入できたのです。これぞ塞翁が馬。世界各国で同じコンセプトの乗り物が研究されている現状を考えると、コロナ後には国内外から観光客や研究者が押し寄せ、長年の赤字路線が全国有数の儲かり路線に変身するかもしれません。これは、阿呆に見えることでも「続けにゃ損そん」という阿波踊りの教えでしょうか。勉強になります!
■殿村美樹(とのむら・みき) 株式会社TMオフィス代表取締役。同志社大学大学院ビジネス研究科「地域ブランド戦略」教員。関西大学社会学部「広報論」講師。「うどん県」や「ひこにゃん」など、地方PRを3000件以上成功させた〝ブーム仕掛け人〟。