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直木賞受賞から25年。3年前には吉川英治文学賞も受賞し、作家として円熟の域に達した。しかし、そうした名声を得ながらも小説への飽くなき意欲で新たな世界観を構築する。今回、畢生(ひっせい)の大作を送り込んだ篠田節子さんに聞いた。 (文・竹縄昌/写真・三尾郁恵)
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――着想はいつ頃
「着想自体は2016年ごろでした。人に影響を及ぼす磁場のような〝場所〟に興味がありました。それは、巡礼の聖地といったものではなく、人間の性格などが変えられてしまう〝磁場〟を持つ謎めいた土地です。そして着想したのは、その磁場と言えるものが、実は生態系に原因していて、独自の生態系を持った場所が磁場として人を変えてしまう。小説の中の〝謎〟を生態系にしてみたかったんです」
――家族の物語と思いきや近未来に話が及び、AIやさらには新たな日本人ノーベル文学賞受賞作家も登場する。最後の謎解きといい、複雑な構成にも感じました
「本来なら、第4章(「ストックホルムで消えた」)から始まるストーリーだと思います。昨年は単行本を初めて出版してから30年の年でした。思いの外、長く作家をやってきて、分厚い本もたくさん書きましたが、これから以降、縮小再生産に陥ることだけはしたくなかったんです。ですから、敢えて小説の形式から外れたような、いびつな作品を書いてみようと思い、本書では、長篇小説の骨格となるエピソードの前に、中篇小説2本にあたる物語を入れ、それを謎につなげていきました」