昔々の1936年、ベルリン五輪の陸上男子100メートルでジェシー・オーエンス(米国)が優勝したとき、スタンドのヒトラー総統が露骨に嫌な顔をしたのを当時のニュースフィルムか、記録映画で見た記憶がある。
アーリア民族の優越性を世界に誇示するために開いた五輪で、黒人のオーエンスに100メートルはおろか200メートル、400メートルリレー、走り幅跳びの4冠をさらわれた。
そればかりか、ベルリン市民は〝五輪の英雄〟ともてはやした。ヒトラーはそれこそハラワタの煮えくり返る思いだったろう。
その代わり、ドイツ選手が金メダルを取るとうれしそうに笑った。あの冷徹で特異な性格の中に、人間らしい一面も持ち合わせていたらしい。そんな昔話を思い出す北京冬季五輪が開幕した。
少数民族に対する中国の人権抑圧に各国から厳しい批判が集まる中での五輪は、今年後半の中国共産党大会で異例の3期目政権を目指す習近平国家主席のための五輪といわれる。
1月末、北京中心部の天安門には100人を超す中国選手団が集まり、「領袖(りょうしゅう=指導者)のために捨て身になって報いる」「総書記に付き従い、共に未来へ」などとシュプレヒコールを上げていたのをテレビニュースで見た。