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甲子園の歴史の中で代打専門としての〝ピカ一〟は2006年88回選手権、初出場でベスト4の県立鹿児島工業の今吉晃一だ。
しかも、この年は早稲田実業・斎藤佑樹、駒大苫小牧・田中将大の決勝戦延長15回引き分け再試合決着で最高潮の盛り上がりを見せたが、私はこの大会の人気ナンバーワンは鹿児島工業快進撃の立役者の一人〝代打の切り札にしてムードメーカー〟の今吉だと思う。
この夏、高校野球ファンは今吉の登場が楽しみだった。鹿児島大会の代打成績は6打数5安打、甲子園でも4打数2安打という驚異の成功率を誇る男だ。だが、代打成績が抜群で試合の流れを変える選手、もちろんそこは大事なポイントだが、体全体から発散するモノ、周りに及ぼす好影響、何と言っても野球は面白い、仲間といるのは楽しいんだというメッセージが発信されていた。
何となく試合を眺めているとベンチにいる今吉の姿をずーっと視線が追ってしまうようなオーラの持ち主なのだ。そしてネクストバッターボックスで準備を始めたらもう目を離せない。
この日準決勝の早稲田実業戦でも今吉劇場が始まった。私の視線の先に今吉。169センチ89キロと小柄だが筋肉の盛り上がりを感じる肩幅は広く、背番号11がやや小さく窮屈そうに見える。決して足は長い方ではなくどっしりとした体形。金色の金属バットのグリップは一握り余らせ、左手には黒いバッティンググラブ、右手は素手で滑り止めの白い粉をたっぷりつけている。丁寧に3度素振りをくれて準備完了。代打が場内に告げられる。