「舞台をやり始めてから10年近くたって、劇団のことを小説に書きたくなったんです。劇団の中って、外からは案外見えにくいじゃないですか」
10年ぶりとなる長編小説「女優」(集英社)をこのほど上梓(じょうし)した。なぜモチーフに「女優」を選んだのか。そのわけはこうだ。
「女優さんって、面白いんです。男性の俳優の演技って、どこかに自分のステイタスのような社会性が見え隠れするけど女優は違う。純粋というか、演技に対して商売の臭いがしない。ここは絶対男にはかなわない」
昭和を代表する大女優の息子として生まれた主人公は小劇団を主宰している。妻である座付き作家の戯曲をめぐり、ヒロインとその内面である〝もうひとりのヒロイン〟を2人の女優に託す。そしてその母親役に自身の母を起用したことで、劇団には初めは小さく、しかし確実な波紋が広がり始める…。